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仕方ないと呟き、土掘りは襖を開けた。
宴会場らしきその広間はおそらくこの旅館最大の広さを誇る部屋だった。100畳ほどの広さがあり、緑色の畳が同じ向きで敷き詰められ、白い砂壁に囲まれている。
奥の壁には葛飾北斎のレプリカ絵画が大きく飾られていて、その前に男達がいた。外したネクタイを床に捨て、スーツを着崩している男の左右に屈強な体格をした輩が立っていた。
座卓に置かれた酒と料理を口に運びながら入ってくるように命令する。
恭しく土掘りが、畳に膝を擦らせるように低い姿勢で部屋に入った。
フェイは慎重な歩調で進入する。部屋には遮蔽物もなく、奥にいる男以外動く者はいなかった。
「そいつが例のフェイって奴か」
男——羽宮が訊いた。知っている男だった。浪士党の一人として、テレビで見たことがある。
土掘りがその通りですと答えた。
「一応、あらためて説明致します。彼女は我々がフェイ、という通称名で活動させていました。七歳からロウ・ディフェンダー直属の消毒部隊の候補生になり、そこから三年間の訓練を経てから実戦に投入され、一年の間活躍していました。その後に除隊し、以降は我々と関わらないように生活していました」
ロウ・ディフェンダーには大まかに三つの実行部隊が存在する。
一つは通常の治安・警護活動をする一般要員。今では民間警察と呼ばれる者達だ。
二つ目は対銃を始めとした凶悪犯対抗部隊の秘剣。
そして消毒部隊だ。
一般要員、秘剣と違い消毒部隊は世間に公表していない秘匿部隊だ。ロウ・ディフェンダーの中でも存在を知る者は稀で、上級の幹部か秘剣の一部、そして浪士党だけが知っている。
秘剣と同じ特殊部隊ではあるが、その活動内容は暗殺や拷問、犯罪の証拠の隠滅と全く異なる。
浪士党、あるいはロウ・ディフェンダーの邪魔になった人物の排除を目的としている部隊だった。
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