3.免罪符(後半)

1/12
前へ
/58ページ
次へ

3.免罪符(後半)

 免罪符システム。  途方もない説明にフェイは声を荒げる。  「馬鹿げてます。こんな、だって例えば銃乱射とかしたらどうするんですか?」  「実行場所と時間を指定すれば可能だ。全身を隠してもらい、万が一に備えて逃走サポート要員を必ずつけてもらうがな。それとその規模の犯行なら、世論の沈静化の為に必ず身代わりが必要になる。体格の似た奴を人身御供にする。殺した後に発見、書類送検と言った具合だ」  血の気の引く思いがした。  「そんな、そうだ、ネットで拡散されたら? 身体の特徴とか、真相に辿り着ける材料を晒されたらどうするんですか?」  「積穏町の基地局は全て我々の制圧下に入った。通信内容は傍受できるし、犯行近くの携帯は全てチェックしてる。遠隔で映像を消せることも既に実証済みだ」  更にメディアを校閲するコネも手に入れていると、彼は説明した。  晒したくないモノを日の光から遮る影は、途方もない程に巨大化していた。  このために、様々な職業に介入できる立場を手にしたのだと土掘りは言う。  傍受と監視を行い、暗躍する為に。  さながら鳥籠にいる状態だった。見えない糸で作られた、酷く窮屈な監獄が完成していたことに、フェイは初めて気がついた。  「正気じゃない。どうして、こんな事をしているんですか?」  切羽詰まった口調で訊くフェイに答えたのは、羽宮だった。  「うちの連中のせいだよ。浪士党にいるゴロツキのせいさ」  お猪口を傾け、彼は語る。  「数を揃えたのはよかったんだが、どいつもこいつも問題ばかり起こしやがる。人追っかけて轢いておいて、ぬけぬけとテレビに出る野郎や、嬢ちゃんくらいの年の子を妊娠させる間抜けもいる。注意はするしカメラの前で馬鹿野郎とかは言うさ。でも厳罰とかにしたら、それは他党への隙に繋がる」  「責任を取ること、取らせることも貴方の仕事では?」  目を細めるフェイに羽宮は分かっていないな、と口角を歪めた。  「大人の駆け引きは、まだ君には早いか」  いや、わかってる。ただの醜い保身にすぎないことくらい。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加