2.フェイ 

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さらけ出された彼女の身体を男の一人が無遠慮に正面から見下ろす。セーラー服が垂れ下がり最低限隠してくれているが心許なかった。心細さを隠し、水汐は懸命に男を真っ直ぐ見上げる。 男は胸元に目線を下げ、唇を歪めた。おやおや、と口を動かす。 「こいつは大人顔負けだ。嬉しい誤算だね。中身も生意気だったが、身体の方はもっと生意気と来た」 おら撮ってやれ、と男が怒鳴る。 撮影している男が正面に回って彼女を写す。胸の間をアップにした。 吐き気がする。 怒りが募った。男達が揃いも揃って未成年に興味を抱いている姿が気持ち悪くして仕方なかった。 いや、落ち着かなくては。水汐はあらためて周りの男達を観察する。空手家崩れのヤマを含め、屈強な肉体をしている者が幾人もいた。仮にロープが解けても、水汐など簡単に抑えつけられそうだった。 特に一人、異様な気配を纏っている者がいた。 年齢はおそらく30代。片手に漆黒のステッキを持っているスーツ姿の伊達男。皆から一歩離れて水汐の様子を眺めている彼を周りの男も恭しく接している。 ヤクザには見えない。だが、堅気にも見えない——いったい何者なのか。 「お、免罪符取れたわ。対象はその嬢ちゃん」 携帯端末を操作していた男が声を上げる。やっとか、と呟いてから水汐の正面の男が笑った。 「いいぞ、何とった?」 「嬢ちゃん対象にレベル高めの免罪符を発動させた。ただ傷害と誘拐後付けだから割高になった」 「ケチかよ。まあいい、それで?」下卑た笑みを浮かべる。「どこまでやっていいんだ」 「やりたいことをやりゃいい。ただ、旅館との交渉が終わったら、解放しなくちゃいかん。結構派手にやったからな。だから俺等の記憶は消す必要がある」 「マジか。いやー、でもな」 男の太い左の人差し指がへその下に触れた。びくりと身体を震わす水汐の反応に満足しながら、男の指が上へと昇っていく。 「出来れば覚えていて欲しいね、嬢ちゃんには俺達との濃厚な記憶を」 「ああ、それなら大丈夫だ。思い出させることも可能らしい。需要がありそうだからな、この嬢ちゃん。事件が沈静化したら、もう一度さらって、色々仕込みたい」 「そりゃよかった」 昇る指がへそをなぞり、腹をなぞり、胸の高さまでなぞる。思わず水汐は逃げるように身をよじった。 「何だ? 随分気に入ったんだな?」 「まあな。ヤマがご執心なのも分かる。まだ青いが、幸い早熟だしな」 指が、首筋を辿って顎を撫でた。 そのおぞましい感触に水汐は顔の色を失い、悔しそうに顔を背けると、背けた顎を男は掴んで自分に向けさせた。 水汐の揺れる瞳が男を反射し、彼女は頬を赤く染めた。遂に見え始めた羞恥心に男は満足し、舌を舐めずった。 「免罪符の期間はどれくらいだ?」 「取り敢えず二日だ。まあ、映像撮ってから旅館を脅して交渉するから伸びるだろうけどな」 「五日はとっとけ。連中が要求を呑んでも、この女は徹底的にやり尽くす。一旦解放するにしてもその後だ」 ナイフの背がスカートの裾を少し持ち上げ、中にあるショートパンツに切っ先が触れる。 太ももをナイフの腹でさすられ、身を強張らせる水汐。男はナイフを腰に仕舞うと直に触ってくる。 顎に置かれていた手が来た道をなぞった。まるで乾いたナメクジに這われるような不快さに水汐は目を瞑る。 指が胸の中心で止まった。水汐は目を閉じたまま顔を背け、男は彼女の胸元に目を落として口元を歪めた。 「大人を挑発しやがって。本当に生意気なガキだぜ」 男は欲望に心躍らせ太い指で彼女の胸の中心を小突いた。 水汐の身体が、力なく震えた。 その様子を眺め男が興奮を露わにし、そんな彼の行動の原点を水汐は知っていた。 支配欲。 性欲ではない。例えば痴漢の半分が勃起していないように、与しやすいと判断した女性を支配下に置きたいという欲求が彼を動かしていることを水汐は分かっていた。 だっていつもそうだから。 男は邪な表情で顔を近づけて口角を下品に上げた。 「長い付き合いになりそうだから宜しくな、嬢ちゃん」 鼻につく息が漂った。悲鳴を押し殺すのに苦労する。 目の端で動きがあったのはその時。 ヤマが腰掛けていた伊達男に耳打ちするのが見える。伊達男は水汐を一瞥してから緩慢に立ち上がると踵を返した。 二人はゆっくりとした歩調で外に向かっていく。水汐は触れてくる男の手に身体を揺らし、呼吸を乱しながら彼らが夜の闇の中に消えるのを待った。
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