安曇家の兄と妹

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彼の表情を窺うと、口元が綻んでいた。 「そう。じゃ、安曇さん自身が男嫌いとかいう訳じゃないんだ」 頷く。 彼が、安堵しているような気がする。 と共に、自分の内側から 「危険だ 自惚れんな 勘違いするな 思い止まれ」 と理性が警鐘を鳴らす。 心臓も相変わらず煩い。 ドクドクドク。 バタバタ。 バタバタ? 足音が、こちらに向かってくる。 図書室の扉のすりガラス越しに、藍色の道着が近づいて来るのが見える。 「...のこと、好き?」 足音に気を取られて、あろう事か彼の言葉を聞きもらした。 今までにない間近で見る彼の綺麗な顔に、つい頷いてしまう。 「本当に?ありがとう。迷いが晴れたよ。」 彼の様子から、何か重大な過ちを犯してしまった気がする。 「ごめんなさい、さっきの質問もう一度...」 バアン!! 荒っぽく扉が開かれる。 道着姿で肩で息してるのは 兄貴ではなかった。 体の力が抜ける。 それを、佐川くんが腕をつかんで支えてくれた。 腕が! 体温が! 息が! また煩くなった心臓が、彼の一言で止まるかと思った。 「さっき、お兄さんのこと好きって聞いたんだよ」 至近距離で囁かれた声は、色っぽく。 内容が残念過ぎた。
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