5人が本棚に入れています
本棚に追加
昼休み。
朝のことを思い出していたら、親友の里菜に不審がられた。
中庭のベンチでお弁当を広げる。
「何かあったの?」
「いや、あ、今日から剣道部に行くことになったから一緒に帰れない」
里菜が目を丸くする。
「なんで?あんなに逃げ回ってたのに。剣先輩に押し切られたの?」
「そういう訳でもないんだけど、試合に人足りないらしくて」
「...さては、剣道部に好きな人でも出来た?」
近い。
慌ててお茶を飲み干す。
「んなわけないか。剣先輩に歯向かう勇気ある奴は居ないわね」
里菜が笑う。
このまま笑ってごまかしとこう。
しかし逃してくれなかった。
「もしかして、男子にも誰か助っ人いたりするの?」
里菜さん、許して。
「誰よ。教えなさい。シスコン返上する良い機会じゃないの。応援してあげるから」
目が怖いっす。
「...佐川くん」
「はあ?」
里菜の大声が青空に吸い込まれていった。
そのまま、里菜が黙り込んだので、不安になる。
「佐川くん、隣のクラスの...知ってる?」
「ああ、うん。ある意味有名よ。」
「...何か悪い噂とか、あるの?か、彼女いるとか?」
自分で聞いておいて、涙がじわっと浮かぶ。
里菜が慌てて肩を叩いてくれる。
「彼女は居ないよ!...うん、優しそうだし、物静かだけど、確かに綺麗な顔だよね。はは。...まさかアンタの好みがそういったか、てちょっとふび...いやいや、驚いただけ。」
頬を染める瞳子に気付かれないように、里菜は溜息をついた。
知ってるも何も、佐川は有名だ。
日本人離れした容姿と、王子様キャラというのだろうか。喋り方や物腰が落ち着いてる。
入学当初、話題になっていた。
しかしそれよりも。
瞳子が彼の噂を知らなかった事に驚いたけれど、よくよく思えばまあ無理はない。
『あの安曇剣を上回る...』
それが佐川についてまわる形容語句なのだから。
誰が本人(と妹)に言えるというのだ。
「あえてなんでそこ行くかなあ」
里菜は呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!