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昼休み。
朝のことを思い出していたら、親友の里菜に不審がられた。
中庭のベンチでお弁当を広げる。
「何かあったの?」
「いや、あ、今日から剣道部に行くことになったから一緒に帰れない」
里菜が目を丸くする。
「なんで?あんなに逃げ回ってたのに。剣先輩に押し切られたの?」
「そういう訳でもないんだけど、試合に人足りないらしくて」
「...さては、剣道部に好きな人でも出来た?」
近い。
慌ててお茶を飲み干す。
「んなわけないか。剣先輩に歯向かう勇気ある奴は居ないわね」
里菜が笑う。
このまま笑ってごまかしとこう。
しかし逃してくれなかった。
「もしかして、男子にも誰か助っ人いたりするの?」
里菜さん、許して。
「誰よ。教えなさい。シスコン返上する良い機会じゃないの。応援してあげるから」
目が怖いっす。
「...佐川くん」
「はあ?」
里菜の大声が青空に吸い込まれていった。
そのまま、里菜が黙り込んだので、不安になる。
「佐川くん、隣のクラスの...知ってる?」
「ああ、うん。ある意味有名よ。」
「...何か悪い噂とか、あるの?か、彼女いるとか?」
自分で聞いておいて、涙がじわっと浮かぶ。
里菜が慌てて肩を叩いてくれる。
「彼女は居ないよ!...うん、優しそうだし、物静かだけど、確かに綺麗な顔だよね。はは。...まさかアンタの好みがそういったか、てちょっとふび...いやいや、驚いただけ。」
頬を染める瞳子に気付かれないように、里菜は溜息をついた。
知ってるも何も、佐川は有名だ。
日本人離れした容姿と、王子様キャラというのだろうか。喋り方や物腰が落ち着いてる。
入学当初、話題になっていた。
しかしそれよりも。
瞳子が彼の噂を知らなかった事に驚いたけれど、よくよく思えばまあ無理はない。
『あの安曇剣を上回る...』
それが佐川についてまわる形容語句なのだから。
誰が本人(と妹)に言えるというのだ。
「あえてなんでそこ行くかなあ」
里菜は呟いた。
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