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なんだか武道館の中が騒がしい。
マネージャーも辞めたということで、私は部室の整頓と防具のチェックをしていた。辞めた子の使ってた分をせめて干しておこうと思ったのだ。
「大変よ、瞳子ちゃん。剣と助っ人くんが、勝負するって」
さーっと血の気が引くのがわかった。
二人が防具をつけて、めいめい素振りや屈伸をしている。
藤崎先輩のところに駆け寄る。
「お兄ちゃんが、勘違いして怒ってるんでしょ?佐川くん殺されちゃう、止めて先輩!!」
藤崎先輩はおもしろそうに眺める。
「いや、佐川のほうから言ったんだよ。
勝算あるんじゃないかな」
「なんでそんなこと!」
沙和先輩が、
「もしかして、瞳子ちゃんとの事を認めてくれって?」
「そんなに親しくないですよ、まだ」
否定したつもりなのに、二人に
『まだ』のところを食いつかれてしまった。
沙和先輩が、藤崎先輩と話している。
兄貴は普通の道着に袴、防具。
佐川くんは、柔道着に胴と小手だけ防具を。面は着けてない。
「剣は、面を打たないって事ね。でも危ないから着けた方が良いと思うんだけどなー。全く未経験なんでしょ?あの子」
「まあ、視界狭くなるけどな。」
佐川くんは眼鏡を外していて、いつもと雰囲気が違う。
身長は多分170cmくらい?185cmの兄貴とは頭ひとつ分くらい違う。
鍔迫り合いでぶつかられたら、飛ばされそうだ。
「もう一回確認しますけど。
俺、剣道のルールを知らないので、面と小手と胴、ここを打つだけで一本て扱いにして下さいね。軽く当てるだけでも。竹刀をどんな使い方しても良いですね?」
「ああ。どうせ当てさせねえ。」
「足も、どんな動きしても反則ナシで。あ、蹴りはしませんけど」
「わかった。」
「判定は、藤崎先輩お願い」
指名されて、藤崎先輩が立った。楽しそうに目を見開いている。
紅白の旗を持ち、試合形式が整った。
「いざ尋常に、...始め!」
静寂の中、床を蹴る音が響いた。
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