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母屋よりも立派な道場ってどうなのよ。
生まれついて十六年、何度思ったことだろう。
父の価値観が端的に表れている。
そして、目の前のこの男も。
骨の髄まで剣道馬鹿だ。
いや、剣道に申し訳ない。
私も剣道は好きだ。
この男の問題は...そこじゃない。
「...朝っぱらから奇声を上げて打ち込まないでくれる?」
「だって、お前が男にボロボロにされる夢を見たから、この手で制裁を...」
「毎日変な夢を見る自身に問題があると思わないの?」
私が繰り出す突きも面も軽くかわされる。
「お前、ウエスト何センチだ?」
「とうとうセクハラか、良い度胸だ変態」
「違う!!俺は本気でお前を守ろうと」
その声音が真剣なので、竹刀を下げる。
兄貴が、面を外した。
切れ長の目に見つめられる。
「親父もまだ退院の目処つかないし、お前に何かあったら俺...」
目線を落とすと、兄貴が竹刀をぐっと握り締めるのが目に入った。
案じてくれてるのは、わかってる。
一歩、兄貴が間合いを詰める。
「だからさ」
顔を上げると、まともに目が合う。
「そろそろ買ったほうが良いと思うんだ。」
「は?何を」
「貞操帯」
...引くわ。
物理的にも、飛び退いた。ついでに引き小手を打ってやった。
これくらい大して痛くは無いだろうけど。
「お前は相変わらず小手が得意だなあ」
嬉しそうに小手を脱いで赤くなったのを確かめている。
何だかこっちの方が精神的にダメージ食らった。
「変態には関わらない、変態には関わらない」
落ち着く呪文を唱えていると、兄貴が肩に手をおいた。
「そうだ、変態には関わるなよ。」
「アンタの事だよ、このシスコン!!」
ちくしょう、近すぎて竹刀使えねえ。
「しかも小手で触んないでっ匂いが移るから!」
「それが虫除けじゃないか」
「万人が離れるわ。もう、シャワー行こ。」
「最近、匂いとか気にしすぎだよなあ。まさかお前、ままさかカカ彼氏とかかか」
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