安曇家の兄と妹

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私もご飯を咀嚼する。 昔は、自慢のお兄ちゃんだったのにな... 強くてカッコ良くて強くて... どこで間違っちゃったんだろ。 可哀想なお兄ちゃん。 いや待て、被害者は私だ。 「さ、そろそろ行くか。急がねえと置いていくぞ」 キラッキラな笑顔で手を差し出される。 「彼氏気取り?。一人で行って。朝練あるんでしょ。」 「お前が行かないなら俺も行かない。お前が痴漢にでも合ってないか心配で電車を止めてしまいそうだ」 こうして、剣道部の朝練に私まで付き合わされる。 登校してからは逃げますもちろん。 ただでさえ、剣道部に入部しろと煩いのだから。 それに、 最近は別の楽しみも出来た。 図書室に向かう。 人の気配のない、まだひんやりとした空気の中に滑り込む。 いつもの場所に、彼は座っていた。 頬杖をついて、本を眺めている。 真剣に頁を繰るようにも見えないし、単にぼんやりしているのかと始めは思った。 佐川 蒼介くん。 隣のクラスの彼は色素の薄い髪と目をしている。 銀縁の眼鏡をかけて、無口なのに冷たそうに見えないのは顔立ちが柔和だからかもしれない。 頭がとても良いらしい。 お金持ちで、子供の頃は海外に住んでいたらしい。 彼の情報は、片手で足りる程しかない。 伝聞...それも噂程度のもの。 彼と同じ中学出身の子に聞けば、もっといろいろ聞かせてもらえると思う。 でも、知りたくない思いもある。 変に勘ぐられたら、私の知られたくないことも伝わってしまうかもしれない。 女子の好奇心と情報力は、一方通行ではないのだから。 常に、多方向に噂のアンテナが張られている。 時々、朝の図書室で出会って。 予鈴で目が合った時には軽く会釈して。 知らないくらいが、ちょうどいい。 彼は、私の王子様なんだから。
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