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本を選んで、窓辺の席に座る。
彼の後ろ姿がギリギリ視界に入るのが気に入っている。
武道館から、剣道部の朝練の声も聞こえるし。
別に兄貴が気になるとかではなく、奴が確実にそこにいる、この安心感が好きなだけ。
そう、今だけは絶対に邪魔されないから。
「安曇さん」
柔らかな声で呼ばれた。
白いシャツに沿って目線を上げると、
佐川くんが困ったような顔をして立っていた。
名前を知っててくれた。
それだけで、びっくりして声が出ない。
何か言わないと、と思うのに出てこない。
「ごめん、驚かせた?」
現在形で驚き続行中だけど、頷いたらもう彼は話しかけてくれないような気がした。
「...1日に3回しか話さないって本当なの?」
「...そ、そんなことないで、す」
搾り出した声に、彼が目を見開いた。
猫みたい。
顔に熱が集まり、心臓が存在を主張している。
「3回って、センテンスなのかな?一つの話題で1カウントなの?」
何を言ってるんだこの王子様は。
というより彼の望む答えがわからない。
「あの、そのルール自体私も知らなくて。皆が話しかけてこないだけなので、私は全然構わない...んですけど、兄が勝手に...」
言いながら涙目になる。
あの兄のせいとはいえ、彼は噂が珍しくて話しかけてくれたんだろう。
あんな兄が居たらもう、ドン引きされてるに違いない。
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