兄の本分(改)

安曇家の兄と妹

何度目だろう、こう聞かれるのは。
5月に入ってから増えた気がする。
「安曇さんって、『あの』安曇先輩の妹だったんだ！？」

兄は人気がある。なぜかはわからない。もっと人気のある男子生徒もいる。おしゃれで華やかで友だちが多そうで派手に他校の女子とも遊んでいる先輩たちもいる。

兄は彼女はいない。ひそかにモテてはいるようだ。
丁重にお断りしているらしい。少し襟足が長めの黒髪、切れ長の目。笑うと大きめの口、薄い唇。派手なタイプの顔ではない。
剣道着姿は三割増しに見えるが、騒がれるほどではないと思う。
女子と仲良くしているところはあまり見ないが、クラスで浮かない程度には会話はしているらしい。

入学式で一目見て
「あのかっこいい先輩、誰！？」
と騒がれるような美形ではない。

「売店で財布忘れて困ってたら一緒に払ってくれた」
「迷っていたら教室まで送ってくれた」
「先生から資料を運ぶの頼まれて地学室から出てきたら、持ってくれた」
「貧血でしゃがみこんでたら、背負って保健室まで」
「登校中におばあさんを背負ってた」
「怪我した子供背負ってた」
「喧嘩したヤンキーの仲裁してた」
「保育園の前で行きたくないと泣いてる子供を説得してお母さんに感謝されてた」

新入生の皆さん、口をそろえて言います。
あの背の高い黒髪の優しい先輩は誰？
って。

それで、在校生には通じる。
「ああ、三年の安曇剣さんだよ。」

人を助けすぎて授業に遅れても先生が叱らないらしい。
あー、また安曇か。じゃあ仕方ないな
って。

女子の先輩絡もう声をかけられた。

「あ、あなたが安曇くんの妹さん」
「あの妹さん……」

「ああ、例の……」

安曇剣、ファンは多いし崇拝に近い人気もある。ただ一つ残念なのは、

極度のシスコンだということだ。