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「俺はですね。あなたを待っていた。」
「そうなんですね」
私を待つという言葉に少しは違和感を持つべきだった。
この時の待つは屋上で待っていたに変換された。
それは一番最初に言っていたではないか。
なぜ、それに気づかない。
わざわざこの状態で二回言う必要性を感じるか?
「俺は地縛霊なんですよ」
「へっ?」
掴まれていた肩がビクッと跳ねる。
えっ、どういうこと?
思考が追いついてこない。
話の急展開が私の脳には入ってこない。
「あなたみたいな人を待っていた。俺を拒まず、受け止めてくれるあなたの優しさが欲しい。でも、どうやっても人と幽霊の間には境目ができてしまいます。ならば、それを埋めるためにあなたには、」
イヤだ。イヤだ。イヤだ。
そんな、私、そんなことになるなんて思ってない!
助けて!助けて、誰か!
私の優しさなんか所詮、偽善。
私もみんなと同じ子どもなの。
私は優しい人なんかじゃない。
「死んでもらいます」
言葉の意味とは真逆なその顔が私の恐怖を焚きつける。
「な、んで…」
「同じ幽霊になってしまえば簡単な話。一生、いや、永遠に二人きりでいられますよ。ずっと、寂しかったんですよ。こんなところで一人なんて。あなたならその聖母の笑みでなんでも受け止められるでしょう?」
目の前の自称地縛霊さんは肩にあった手を私の首に動かす。
そして、私の首を絞めた。
その時の記憶が全くなくて、必死にもがいても、力の差によって無理だった。
死ぬと思った。
こんなところで終わる人生だったんだ。
私なんて生きていても価値も何もない。
ただの人間。そう、私はただの人間。
もっと生きたかった。
大人になりたかったし、おばあちゃんまで生きる予定だったのに。
私は、死ぬのかな?
「三笠さん!」
脳に声が響く。
私の名前だ。
自称地縛霊とは違う声。
その時、首が解放された。
「大丈夫!?三笠さん!」
「だ、いじょう、ぶ、です…」
「大丈夫じゃないよね!僕が保健室まで連れていくよ!」
フワリと体が浮いた。
そして、起きた時には保健室にいた。
全く覚えていなくて、びっくりした。
起きた直後、保健医の先生からいろいろと説明され、私は助けてくれた人にお礼がしたいと思った。
だけど、私を助けてくれた人は名前も言わず、去っていってしまったらしく、お礼を言いたくても言えない。
何がなんでも探し出そう。
一生をかけても返せないほどの恩だ。
私は心に誓って、歩き出した。
fin
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