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「宮内君、好きです、つきあって下さい!」 そう言われて、ああまたか…という気持ちと、今度こそはという気持ちが半々。微妙だ。でも、とりあえずは目の前で緊張で顔を赤くしている男子生徒を観察してみる事にする。 背はまあ、そこそこ。僕より高いなら問題無し。中肉中背、顔も…ちょっと垢抜けないけど、凛々しい目鼻立ちは悪くない。ボサッとしたヘアスタイルを変えたらいい線行くんじゃないだろうか。 それに、何より…純朴そうに見える。今まで僕に告白してきた人達は皆、結構自分に自信のあるタイプが多かったから新鮮といえば新鮮。 (今度は大丈夫かも…) 幸い、前の恋人とは2週間前に別れてフリーだ。告白を受け入れるのに、何ら問題は無い。思えば前カレは最初から緩い雰囲気で、遊び慣れている感があった。顔が好みだったから付き合ってみたけど、最初の直感は侮れない。もうすぐ2ヶ月という辺りで、街中で浮気相手とデートしている彼にたまたま遭遇してその場で別れた。『タダのセフレなんだ、許してくれ』と言いながら追い縋ってきた彼の顔面を笑って踏み付けて帰って、姉2に慰められたのも記憶に新しい。 ならば変に自信家よりはこれくらい初心そうな方が、穏やかな付き合いができるのかもと思った僕は、にっこり笑って頷いた。 「そうなんだ、嬉しいな。 浮気したら別れるけど、よろしくね」 お決まりのセリフで始まるのも、もうテンプレ化している。 と言うと誤解されそうだけど、別に告白されたら毎回受け入れてる訳じゃない。僕はそんな節操無しじゃない。フリーで、尚且つ相手が好みの範疇なら、期待し過ぎずにとりあえずは付き合ってみるってだけだ。 僕、宮内早霧は20歳の大学生。 家族構成は、母、姉、姉2、祖母、近くには母の妹である叔母2人がそれぞれに独立して居を構えて住んでいる。もう大体わかってもらえたかと思うけど、つまり、女性ばかりだ。 母は僕が4歳の時に父と離婚してるし、7歳離れた上の姉も去年、新婚半年で離婚して出戻ってきた。2番目の姉は根っから男嫌いで、性愛の対象は専ら女性らしいけど、決まった相手はいない様子。祖母も若い頃に祖父と離婚して、小さな惣菜屋を切り盛りしながら母や叔母達、娘3人を育てた。叔母2人も、どちらも3年足らずで幼い娘を抱えて離婚している。 見事に出戻りの彼女達の離婚理由は、全てパートナーの浮気。発覚してから離婚までの時間はそれぞれに違うけど、最終的に、縋り付く相手に再構築ではなく離婚を叩きつけて別れてる辺りに血筋を感じる。 僕の血縁の女性達は、皆一様に気性が荒い。顔つきもキリッした美人タイプで、頭も良くて仕事も出来るから経済的にも自立している。それも離婚を踏み留まらなかった理由のひとつかもしれない。 僕はそんな女系家族の中に、今の所たった1人存在する男子だった。だから皆にとても可愛がられたし大切にしてもらった。けれど、男性の嫌な面を愚痴る捌け口にもなっていたように思う。 『男ってのは、どんなに愛を囁いてても浮気する生き物』 『一途なのは最初だけ』 『早霧はそんな男にはなっちゃダメよ』 幼い頃からそう刷り込まれて、絶対にそんな男にはなるまいと思いながら育ったけれど、成長するにつれて妙な具合いになってきた。小学校までは女子に好意を示される事が多かったのが、中学に上がった頃から同性である男子に優しくされる事が増えてきた。告白されるのも男子の方からの方が多くなってきて、高校生になると完全に逆転し、女生徒からも好意は感じるものの何故か遠巻きな視線を受けるのみになるという、よくわからない状況が出来上がっていた。その頃になると、僕も自分の性指向がどうやら男性らしいって事がわかってきていて、付き合うのに違和感も感じなくなっていたから問題は無かったのだが。 そんな訳で、僕にカノジョが居たのは中学まで。しかもそれは友人の延長っぽいほぼ清らかなお付き合いで、経験したのも触れ合う程度のキスくらいだったから、元カノと言って良いのかどうかも微妙な所だ。その後、高校から大学生になった今まで、僕は男性遍歴のみを重ねる事になったのだが、何の呪いかその全てが半年以内で別れている。 理由は毎回、相手の浮気。そしてその所為で、僕は何時の間にか、スるような人間にならないようにという事よりもサレてしまうのを警戒する側になってしまったのだ。 そうなってしまって、別れる度に思う。 やっぱり母や姉達の言う通り、浮気しない男っていないのかな、って。でもどこかで信じたい気持ちもあるんだ。 一途にお互いだけを想い合える相手だって、きっといる筈だって。 僕はずっと、そんな誰かを探してる。 さて、今回新たに僕の彼氏になった彼、荒川史弥君をご紹介。 経済学部2年、実家は都内で老舗の茶舗を経営、2人兄弟の次男。スペックはまずまずだし性格も人懐っこくて明るい。決して人に嫌われるタイプではないと思うのに、僕が初恋人らしい。どうやら自分の外見に無頓着で気を使ってこなかったらしく、服装やヘアスタイルがもっさりして微妙なのはその所為かと納得。 しかし付き合い始めたからには放置できない性分の僕は、手始めに荒川君をヘアサロンに連れて行った。 担当についた美容師に指示をして、カットにカラーをしてもらっただけで荒川君はスッキリと垢抜けてしまった。やはり磨けば光る逸材だったかと、己の審美眼が怖い。 次に服屋。ファストファッションでもそれなりに揃うから十分。着回しの利くシャツとパンツ数点とカーディガンやジャケットの羽織りもの。靴はとりあえず最初は洒落たスニーカーが2足あれば良いだろう。唯一、使っていたバッグだけはブランドの良いものだったけど、如何せんデザインがオッサン臭い。高くなくても良いから機能性とビジュアルを採るべし、とおすすめのリュックと小さめのショルダーバッグを選択。 試着室で全身着替えた荒川君は、歴代彼氏達に勝るとも劣らない仕上がり。なのにおずおずと出てきた彼の口から出て来た言葉は、 「これで宮内君の隣に並んでも、大丈夫になった?」 なんて健気さだったから、僕はちょっと胸を打たれた。 先に形を整えたのが功を奏したのか、原石だった荒川君はみるみる自信を付けてイケメン化した。見た目は勿論、言動の端々にも自信が見えるようになってきて、そうなると周囲の見る目も変わってくるもので…彼の周りには様々な人々が集まり出した。 当然、女性にもモテ始める。 それでも荒川君は僕に夢中だったし、僕も少しずつ荒川君を好きになっていった。手を繋ぐまでに、2週間。キスまでに1ヶ月半。初々しい彼との付き合いはまるで高校時代に戻ったみたいにもどかしくて、でもそれがまた楽しくて。外でのデートから、荒川君の部屋に遊びに行くようになるまでに2ヶ月。3ヶ月が過ぎて荒川君の覚悟ができた辺りで、僕の部屋に呼んでセックスした。お互い実家住まいだけど、日中もお母さんが在宅の荒川君の家に対して僕の家は、平日は母も姉2人も仕事で夜まで帰って来ない。だから家事の半分くらいは学生で時間のある僕が担っているんだけれど、こういう時は都合が良い。 荒川君は告白してくれた時と同じように緊張して赤い顔をしながら僕をベッドに押し倒して、触れた。彼の手が少し震えていて、熱かった事を覚えている。 初めての彼は男同士のやり方なんか知らなくて、下手くそで、もどかしくて、要領の悪い手つき。でもそれが愛おしいと思った。僕しか知らない彼が、とても。 ぎこちないキス。寄る辺なく僕を求めてくる舌。それが肌の上を滑り、舐め、吸いつく。僕の反応を伺いながら、でもその瞳の奥に激しく飢えた獣みたいな欲情の火がチラチラと見えて、ゾクゾクした。 『綺麗だ…早霧、綺麗だ…』 そう言いながら荒川君は、僕のあちこちに赤い痕を付けた。首、鎖骨、胸、腹、太腿の内側、足の付け根…。その際、彼の愛撫に勃起した僕のペニスを荒川君は可愛がってくれた。正直、彼は躊躇すると思っていた。僕は確かに、見た目は小綺麗だ。キツめの美形揃いの女系家族の中にあって、実は僕だけがソフトな顔立ちをしている。元義兄…上の姉の元夫だった人からは、『アマゾネスの中の王子様…ってより、お姫様だな』と笑われてたくらい、優しげな顔らしい。初心な荒川君はそんな外見で僕のイメージを作り上げていて、実際にセックスとなると怖気付くんじゃないかと思ってた。 でも、それは杞憂だったようだ。 荒川君は僕のペニスを丁寧に愛撫してくれたし、僕は今までにないくらい感じた。何時もなら我慢できるのに、耐えられずに口の中で射精してしまうくらいに。荒川君の技術は拙い。でも、何と言ったら良いんだろう…。僕を気持ち良くさせようと一生懸命にペニスをしゃぶって、快感に逃げを打つ腰を逃がすまいと両手で掴んでいる彼の、燃えるような瞳。僕の事を抱きたい、好きだと叫んでるようなその目を見ていると、彼が愛しくて堪らなくなって…。 上手い下手より、気持ちで感じてしまったんだと思う。 そんな事は初めてだった。 ああ、彼となら理想のパートナーになれる気がする、そう思った。 早く挿入れたいだろうに、ペニスをギンギンに勃てながらゆっくりと僕の後穴を慣らしてくれた彼。忍耐強いなと感心した。やっとひとつになれた時、感極まって泣いてしまった顔も、可愛いと思った。 初めて、本当に恋人と言える相手と巡り会ったのかもしれない……そんな気がした。 それなのに、まさかこんな事になるなんてね。
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