雪とすいか

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雪とすいか

 私が好きな季節は冬だ。冬生まれということもあるだろうけど。  林檎もあるし大判焼きや葛湯が美味しい。星が綺麗。薄いタオルケットよりふんわりした羽毛布団に包まるのが好き。脱ぐのには限界があるが重ね着する分には多分限界がない。中に何を着ていても上に一枚羽織れば様になる。あと、無駄毛の処理が多少雑でもいい。  何よりも、雪は冬にしかない。  夏が好きだと言う人に会った。理由はきれいに正反対でちょっと可笑しかった。寒いし、夏は一枚着れば済むのに、冬は着込まなくちゃいけないのが面倒くさい、と。  その人が好きな本では大抵陽が燦々と降り注いでいて、私が惹かれる本では大抵雪が舞っていた。  おすすめされて、江國香織の「すいかの匂い」を読んだ。そこに溢れた夏は何処か懐かしくて、文から感じられる日射しは不快ではなかった。  夏が好きだと言う理由が少しだけわかったのと同時に、どうして自分が雪や冬が好きなのか思い当たった。  雪が降っているときの音と、図書室に満ちている音は似ているからだ。  時間も音も包まれて沈澱していく、あの不思議な静寂の音が好きだからだ。  夏も悪くないけど、私はやっぱり冬が好きだな、と窓の外で降り積もる雪を見ながら、すいかの匂いを閉じた。
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