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手紙
——来週の月曜から金曜までの間に、抜き打ちであなたに告白します。
※ ※ ※
それは、七月のとある金曜日のこと。
放課後、上履きをしまおうと下駄箱を開いた僕は、中に見慣れないものが入っていることに気づく。
「なんだ、これ」
それは、一封の小さな白い洋封筒。
周囲に誰もいないことを確認し、そっと封を開けて中身を取り出す。上品な和紙の便箋だった。
淡い水色の背景、右上には青紫色の菫の絵。
一番上の行には僕の名前が書かれ、その下に短い文章が続いていた。
【五木翔くんへ
来週の月曜から金曜までの間に、抜き打ちであなたに告白します。
もし期間内に告白ができなければ、あなたのことは諦めます】
いやいやますますなんだこれ。
とりあえず、「ラブレター」なのだろう。
ついに僕の高校生活にもこんなイベントが訪れたかという高揚感。
だけどそれよりも、この奇妙な文面に混乱の方が先立つ。
好きです、と告白してくれる手紙ではなく、「告白します」という宣言文。
これって、もう告白しているようなものではないのか。
でも、期間内に告白できなければ諦めるって……。そう考えるとやっぱりこの人の中では告白をしたことにはなっていないのか。
一度思考を切って、便箋の右下に目をやった僕は。
「う、うそ!」
思わず声を漏らし、目を見張る。
いたずらじゃないよな。
誰かのドッキリかと考えかけたけど、きっと違う。
この角ばった几帳面な字は、間違いなく彼女のもの。
こんな夢みたいなことが起こるなんて。
差出人として書かれていたのは、僕の好きな人、三澄香織さんの名前だった——。
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