金曜日

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 ——抜き打ちテストのパラドックス。  三澄さんが貸してくれた本の中で、そんな名前のパラドックスが紹介されていた。  問題文は、ある教師が「来週の月曜から金曜までの間にテストを行う」と宣言するところから始まる。  今回の彼女の手紙は、この問題からアイディアを得たに違いない。  元の問題の「テスト」を「告白」に置き換えて、僕は自分の推理を説明した。 「君は、で告白すると宣言した。つまり僕にそのタイミングを予測されてはいけないということだ。  さて、仮に木曜まで告白がなかったとしよう。すると、金曜日に告白することが僕にバレてしまう。そうしたら抜き打ちは成立しない。  だから、金曜日の告白はあり得ず、木曜日までに告白する必要がある。  では、水曜日までに告白がなかったとしたら? 金曜には告白はあり得ないことがわかっているから、告白が木曜日に行われることがバレてしまう。  こうして考えていくと結局、水曜日、火曜日、そして月曜日まで、どの日にも君は抜き打ちで告白することはできないんだ」    彼女は感情の読めない声でこう言った。   「見事ね。それで、気づいたところで、五木くんはどうするのかしら」 「僕は——」  あの手紙をもらった時点で、気づくべきだったんだ。  彼女と結ばれたいのなら、すべきことは、彼女からの抜き打ち告白を待つことではなく。 「好きです。三澄さんのことが」  僕の想いを受け取った彼女の顔に、晴れ晴れとした笑みが現れた。 「五木くんのこと、信じてよかった」  その言葉を合図に、僕はマッチに火をつけ、バーナーの栓を開いた。  彼女が、塩化ナトリウムの水溶液を染み込ませた綿をバーナーに近づける。   「理系の人は、炎色反応を見るとやっぱ花火を連想するの?」  手元に現れた炎に目を向けながら、僕は彼女に訊ねた。  すると彼女が言う。全てを見透かすような笑みを浮かべて。 「それは、誘ってるのかしら」 「さあ、どうかな」  鮮やかにきらめく黄色の炎が、僕らの青春をめらめらと祝福していた。
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