月曜日

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月曜日

 あの三澄さんに告白されるかもしれない。  そう思うとベッドの中でにやけが止まらず、昨晩眠りについたのは二時過ぎ。目が覚めたのは五時前。成長期にあるまじきショートスリープとなってしまったけれども、高揚感のおかげか普段よりもスッキリ目が覚めていた。  髪型は五回もやり直してばっちりセット。普段は適当に結んでいるネクタイも、今日は鏡を凝視しながら一番カッコよく見えるように整えた。  自分史上最強にかっこよくなった僕。あとは三澄さんからの愛の告白を待つだけだ!  一時間目の数学の時間。先生の解説は左から右へ聞き流す。iは虚数——想像上の数(イマジナリー・ナンバー)だって? そんなバカな? アイは実在する! ここにあるのだ! そう、この教室に!!  先生の板書も、手元の教科書もどうでもいい。  僕が見つめるべきは、教室右端一番前の席にいる三澄さんだ。  しなやかにたゆたう、みずみずしい黒髪。どこか浮世離れした表情。時折考え込むようにペンのキャップを頰に押し付けると、白い頰がふわりと凹む。彼女の肌の感触がありありと想像され、僕は幽体離脱してペンに乗り移りたい衝動を抑える。いや、そもそもそんなことできないけど。でも、告白されて、正式に三澄さんの彼氏になれたら、あの神々しい頰を……。 「じゃあ五木」 「は、はい!」  急に名前を呼ばれて飛び上がる。先生は僕を見て淡々と続けた。 「ここ、わかるか?」  あー、そうか。この時間は僕にとっては三澄さんからの告白を待つ時間ではあるのだけど、同時に一応数学の授業中でもあるんだ。  黒板と自分の手元の教科書を見比べる。ぼーっとしているうちに次のページに進んでしまっていたみたいだ。  わからないものは仕方ない。ここでうだうだ言い訳するような男に三澄さんは告白してくれないだろう。 「えっと、すみません。わかりません」  先生は、「はあ」と大げさなため息をついてこう続けた。 「わからないなら集中して聞きなさい。何考えてたのか知らんが、ぼけーっと口が開いてたぞ」  くすくすと、クラスメートの笑い声が僕を囲む。僕の顔が発火して火事になったら先生に弁償してもらおう。 「じゃあ仕方ない、三澄」  先生は僕に解かせようとした問題を指差したまま、廊下側の席に視線を移した。  呼ばれた三澄さんは、全く別の考え事から引き戻されたというように一瞬目を見開く。  いつものこと。彼女は指名されない限り全く授業を聞いていない。  とはいっても、僕のようにやる気がないからではなく。  彼女には、高校の数学の授業なんて必要ないのだ。
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