35人が本棚に入れています
本棚に追加
水曜日
恋は盲目っていうか、見えなくなるわけじゃないけど、とてつもなく視野が狭くなるのは間違いない。
後から考えれば大馬鹿ものだとしか言いようがないことを、この日の僕はやらかした。
昨日の反省を踏まえ、誰にも聞かれず三澄さんとじっくり話せる機会を伺った僕。
チャンス——と僕が思い込んだもの——が訪れたのは、五時間目の体育の時間だった。
この日の体育はバレーで、三澄さんは体調不良のため見学していた。体育館の隅、周りに人はいない。
後から考えれば、具合の悪い人間に下心ですり寄るなんてどうかしてると思ったけど、この時の僕は猪突猛進だった。
自チームの試合が終わり暇ができたタイミングで、僕は体育館の端で座り込んでいる三澄さんの隣に駆け寄った。
「大丈夫?」
三澄さんは無言だった。見たことがないくらいに、顔が青白い。
「どこか、悪いの?」
「お腹が、痛くて……」
「お腹?」
続いて最大級に頓珍漢なことを口走ってしまったのは、きっとこのときの僕が、三澄さんから告白してもらうことに脳内リソースを総動員していたからだろう。
「えっとその……食べ過ぎとか?」
「……え?」
三澄さんが、顔を上げてこちらを見た。
その表情を見て、僕は違和感を覚える。
えっと僕、睨まれている?
いやいや、そんなわけないよね。体調をいたわっているんだから、睨まれる理由なんてどこにもない。
そう自分に言い聞かせつつ、けれどどこか彼女の視線が鋭いのを感じて、不穏な空気を紛らわそうと僕はまくし立て続けた。
「いやその、そういえば、三澄さん今日、お弁当たくさん食べてたなとか思い出して。もし食べ過ぎなら、少し運動した方がいうううううわあ!!」
突然目の前に何かが迫り、反射的に後ろに飛び退く。
見ると、一秒前まで僕の左目があった場所に、三澄さんの握りしめるボールペンがあった。
ちょ、今刺されかけた? 目を??
「どっか行って!!」
「えっと」
「どっか行ってってば!!」
「わ、う、うわっ!」
飛んできたボールペンが左腕に刺さる。思考が整理できないまま、僕は生命の危機を感じて逃げ出した。
ただ告白のチャンスを作ろうとしただけなのに、どうしてこうなるんだよ……。
頭を冷やして、様々な可能性を考えて、正しく罪の意識を感じることができたのは、数時間後のことだった。
最初のコメントを投稿しよう!