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金曜日
「それでは、実験を始めてください」
金曜日の化学の時間。僕は、三澄さんと実験のペアになった。
「ありがとう」
三澄さんが取ってきてくれた二つのビーカーを受け取り、瓶の中の水溶液を注ぐ。理科の実験って面白いんだけど、危険な液体を使う時はすごく神経を使う。ましてや、三澄さんの前で失敗なんてできないって思って余計に緊張する。
落ち着いて真剣な話をするには最悪のタイミングだった。
けれどそんなこと考えてられないくらい、僕は怖かったんだと思う。
今を逃したら、午後にもし二人きりになれる状況がなかったら、このまま終わってしまうんじゃないかってことが。
だから、僕は切り出した。
「あのさ、三澄さん」
「何かしら」
三澄さんが、蒸発皿に液体を加えながら言う。
「あの手紙のことだけど」
三澄さんは無言で、固めた綿をピンセットに挟む。
「君から告白する気なんて、最初からなかったんだろ」
三澄さんが、動きを止めた。
「どうしてそう思うの?」
実験台横の蛇口から一滴、水が滴り落ちた。
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