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「思い出した。弥栄さんのお嬢さんじゃないか。何でこんな人がお前と? 何か企んでいるんじゃないだろうな」 「は、大きなお世話だ」  やよいを振りほどこうとするが、彼女も強情だ。 「そうよ。この人は私のフィアンセ。あなた方、失礼な態度をとったら、母に言いつけるわよ」  兄貴たちは黙り込む。やよいの母親は相当のタマのようだ。  そうこうするうちに、エレベーターが開いて、数人の日本人に囲まれて、ひときわ背の高い紳士が降りてきた。その顔を一目見たとき、俺は確信した。やよいの勘は外れていない。彼の端正な顔の面影をやよいは受け継いでいる。  兄貴たちは慌ててもてなすためにそちらに移動した。相当の人物らしい。ところが、やよいがさらにそれをかき分けて、美しい金髪の紳士の前に立ちはだかった。  紳士は足を止めた。が、眉一つ動かさない。 「オジョウサン」  たどたどしい日本語を発した。 「ナニカゴヨウデスカ」  やよいは黙って自分の左手を差し出した。そこに輝く金色の細工をしたリング。紳士は少し目線を下げてそれを見つめたが、手を振ってそのまま歩き出し、ホールに吸い込まれていった。
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