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13
「思い出した。弥栄さんのお嬢さんじゃないか。何でこんな人がお前と? 何か企んでいるんじゃないだろうな」
「は、大きなお世話だ」
やよいを振りほどこうとするが、彼女も強情だ。
「そうよ。この人は私のフィアンセ。あなた方、失礼な態度をとったら、母に言いつけるわよ」
兄貴たちは黙り込む。やよいの母親は相当のタマのようだ。
そうこうするうちに、エレベーターが開いて、数人の日本人に囲まれて、ひときわ背の高い紳士が降りてきた。その顔を一目見たとき、俺は確信した。やよいの勘は外れていない。彼の端正な顔の面影をやよいは受け継いでいる。
兄貴たちは慌ててもてなすためにそちらに移動した。相当の人物らしい。ところが、やよいがさらにそれをかき分けて、美しい金髪の紳士の前に立ちはだかった。
紳士は足を止めた。が、眉一つ動かさない。
「オジョウサン」
たどたどしい日本語を発した。
「ナニカゴヨウデスカ」
やよいは黙って自分の左手を差し出した。そこに輝く金色の細工をしたリング。紳士は少し目線を下げてそれを見つめたが、手を振ってそのまま歩き出し、ホールに吸い込まれていった。
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