34人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
15
俺たちは無言でエレベーターを降り、このきらびやかなホテルのエントランスを抜けた。外に出ると空は曇っていた。彼女はさっき俺が握らせたリングを取りだし、俺の左手をとって中指に嵌めた。
「あの、さ」
俺は遠慮がちに言う。
「そこは結婚指輪」
くすりとやよいは笑った。
「いいじゃない。弥栄の娘と、うかいホテルグループの御曹司の結婚なんて、誰も止めやしないわ」
そして彼女はまた俺の唇に自分のそれを合わせた。
「聞いてみたかったんだけど」
「何」
「昨日車道に飛び出したのは、ビル風のせい? それとも」
「わかんない。自分でも。でも、風に背中を押されたような気もした。今日の、さっきの結末は何だか予感していたの」
「そう」
「連絡先教えてね」
俺はスマホを取りだした。
「君は地下鉄がいいね。俺はJRだから」
「じゃあ、ひとまずここでお別れ」
彼女は微笑み、そのまま踵を返した。白いコートが揺れる。
最初のコメントを投稿しよう!