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 俺たちは無言でエレベーターを降り、このきらびやかなホテルのエントランスを抜けた。外に出ると空は曇っていた。彼女はさっき俺が握らせたリングを取りだし、俺の左手をとって中指に嵌めた。 「あの、さ」  俺は遠慮がちに言う。 「そこは結婚指輪」  くすりとやよいは笑った。 「いいじゃない。弥栄の娘と、うかいホテルグループの御曹司の結婚なんて、誰も止めやしないわ」  そして彼女はまた俺の唇に自分のそれを合わせた。 「聞いてみたかったんだけど」 「何」 「昨日車道に飛び出したのは、ビル風のせい? それとも」 「わかんない。自分でも。でも、風に背中を押されたような気もした。今日の、さっきの結末は何だか予感していたの」 「そう」 「連絡先教えてね」  俺はスマホを取りだした。 「君は地下鉄がいいね。俺はJRだから」 「じゃあ、ひとまずここでお別れ」  彼女は微笑み、そのまま踵を返した。白いコートが揺れる。
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