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俺が我に返るよりも早く、彼女は体をくねらせ、俺の下から逃れようとした。信号が変わり周囲の人々が無言で渡りはじめた。少女はすっくと立ちあがって、俺を見下ろしながら言った。
「うちに来てください」
おそらくまだ高校生だ。全体に華奢で幼い顔貌。白いコートやその下の服装は不釣り合いなくらい高価そうなものだった。
俺はためらったが、断ればまたさっきのように道に飛び出しかねない。とりあえず、帰宅するまでは見守るつもりで了承した。
信号が点滅しはじめ、俺と少女は駆け足で渡った。そのまま彼女はすたすたと大通りの広い歩道を歩きはじめた。
無言で彼女のすぐ後をついていく俺。遠い塔のようなビルディングがシルエットとなって見える。彼女はその方向へと歩いているように見えた。
『北新宿あたりが住まいなのか』という俺の推測は外れ、少女はさらに明るい方角へと歩いていく。副都心の高層ビル群の下を歩き、見違えるように明るくなった中で、俺はひたすらに彼女の金色の髪が揺れるのを見ていた。
「ここ」
と彼女があごをしゃくったのを見て、俺は面食らった。西新宿の高層ホテルの中の一つだった。
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