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きらびやかなフロントを彼女は平然と通りすぎ、エレベーターホールへと向かった。俺のことなどもう忘れてしまったかのようだ。とにかくも部屋に入るまでは見届けようと思った。このまま屋上に行って……などと想像すると胸糞わるい。エレベーターは11階で停まった。相変わらず無言で降りる少女の後をついて俺も降りる。彼女はポケットからカードキーを取りだすと、1105号室のリーダーに通した。
『これで十分だろう。後のことは知らない』。俺は自分に言い聞かせ、踵を返した。すぐに高く細い声が背中に響いた。
「どこ、行くの? 来て」
切実な声音にためらい、俺は部屋の中まで入ってしまった。さっきの訳だけは聞いておきたい、という好奇心めいた気持ちもあった。誰に見られるわけでもなし。俺自身はその気はない。だから大丈夫だ。そう自分に言い聞かせた。
俺が部屋の中に入ると、彼女はほっとしたようにドアを閉めた。
カードキーで部屋の灯りもいっせいに点灯されていた。そこで改めて彼女の姿を横目で観察した。
今、白いコートを脱いでハンガーにかけている。セミロングの金髪はやはり染めたものではなかった。こちらを振り向いた眼。色素が薄いが茶色。顔立ちはやはり日本人離れしてはいるが、おそらく彼女はハーフだろうと推測した。
「君、高校生だよね」
少し詰問調で尋ねた。彼女は不満げに鼻を鳴らす。子供っぽい仕草だ。
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