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「どうしてこんなところに泊まってるの。家はどこ」  構わず問いただすと、少女は一転顔を上げた。 「私は弥栄やよい。高校3年生で17歳。見ての通り、生粋のアジア系ではないけれど、国籍は日本。家は広尾にある。ここに泊まっているのは、家出したから」  するすると応えた。嘘はなさそうだった。俺が信じたので手応えを感じたのか、少女はさらに説明する。 「母は実業家……女社長ってやつね。お金はたくさんあるの。私は何不自由なく立派な家で有名校に通い、ブランド物を着て育ってきた。でも、愛だけがなかったの。母は私を疎んじてた」  きっぱりと言い切る。低い声で返した。 「何で? 親はかわいいから娘にいい思いさせてんじゃないの。君、さっき死のうとしてた?」 「してた。でも、止めた。助けてもらったから」  そういって彼女は再び俺の顔に近づいたが押しのけた。やばい娘に関わったかもしれないとも思った。 「止めたんならよかった。じゃ、俺はもう行くよ」  出ていこうとする俺のダウンの裾を少女は握りしめた。きつく。 「行かないで」 「用は済んだ」 「父を探しているの。手伝って」  つい足を止めてしまった。 「母は世間体で私にお金をかけたけれど、愛していない。私のこの金色の髪のせいで」  疎まれて育つ子供の気持ちがふと俺の中にも蘇る。 「私は本当の父に会ってみたいの」
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