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シングルルームに泊まるのはまずいのではないか。そう思ったが、かまわないと思った。もちろん、未成年に何かしようとは思っていない。彼女は何の警戒心もなく風呂に入り、ナイトガウンをかけてベッドに座った。
「気持ちいいよ。シャワー」
言われて俺は、少しためらったが冷え切った体を温めたくて、シャワーだけ借りた。着るものはないので元の通りシャツとセーター。
「一緒に寝ていいよ。寒いし」
「冗談じゃない。俺は、そうだな、そこで寝る」
備え付けのデスクとチェアを指した。
「そうお」
のんびりと言って、少女はベッドに横たわり、向こうを向いてしまった。彼女からも俺からも同じ匂いが発散されている。備え付けのシャンプーやせっけんの匂い。
おれはデスクに突っ伏した。空調も効いているのでかえって心地よい。
彼女の身の上を思った。俺が帰れなくなった理由。
俺の家も金持ちだ。だが、それは父と義理の母と兄貴たちのもの。いまや2人の兄もその両腕になっている。俺だけが、一人家を出て自力で生きている。
それはどうでもいい。心を締め付けるのは、俺が非嫡出子だということだ。それなのに親父の家で育てられ、ガキの頃から蔑まれて育った。親父も含めて。なぜ施設に預けなかったのか。単なる奴らの体面の問題だ。
決定的だったのは、大学受験。体面上、俺も受験させてもらえた。そして、兄貴たちよりもいい大学に受かった。学費など出してはもらえなかった。自力で大学に行っても良かったが、俺自身が嫌気の限界で、家を出て、働きはじめた。それ以来、彼らには会っていない。
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