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 吹きつけるビル風は強すぎて、まるで氷を叩きつけられているようだった。  ビルのはざ間の空はすでに藍色に落ち、オフィスビルの照明は消えている階も多かった。急ぎ足で帰路につく人々は黒っぽいコートの襟を立て、一様にうつむいている。  だから、周りに人が多いとはいっても、いち早く彼女の異変に気づいたのは俺だった。  交差点の信号が変わり、並んでいた車が走り出した瞬間、その前に飛び出す彼女を見た。  考えるより先に体が動き、俺は彼女のまとった白いコートの端を思い切りつかんで、歩道側に引いた。半ば放り投げるように彼女をアスファルトの上に投げ出した。そして仰向けから体を起こそうとする彼女の上に覆いかぶさり、全身の力で止めた。  彼女の心臓の鼓動とぬくもりが俺の体にも伝わってきた。顔を上げると、彼女の目はまっすぐに俺を見ていた。そして、ふいに俺の唇に自分のそれを押し当てたのだ。  不意をつかれて混乱する俺の頭には、ひんやりとした唇の感触よりも先に彼女の金色の豊かな髪が波打っていた。  明らかに染めたのではないと分かる。暗がりのなかでも分かる日本人離れした顔立ち。  
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