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第X話 そして彼は伝説の勇者となった
切っ先が、彼女の胸へと吸い込まれていく。
白い喉が仰け反って、震える。赤黒い血が彼女の口から溢れ出す。
足元が、床が、血に染まっていく。床に倒れる彼女が小さな声をあげようとして、音にさえならず消えた。
濃青の瞳が僕を映し出していた。何かを伝えるように、何かを残すように。それが何か分からないまま、その瞳からは意志が消えた。
手が震える。何かが喉の奥からせり上がってくる。目が熱くなって、それでも、涙は出なかった。慟哭をあげなかった。
──そんな価値は、もう、僕にはないから。
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