序章

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 いつから、だったろうか。 『……』  その声が、聞こえて来るようになったのは。 『…………』  聞いたことのあるような、ないような。  近くで(ささや)いているような、遠くで叫んでいるような。  そんな声が。 『…………て』  微睡(まどろ)みの中で、  夢と現の間で、  その声は木霊(こだま)している。 『…………がい』  その声は、今にも泣きそうなほどに掠れ、湿っている。  けれど、声が聞こえるばかりで、  声の主は、姿を現さないままだった。 『…………だれ、か』  その声は、自分に向けられたものなのだろうか。  他の誰かに向けられたものなのだろうか。  それを確かめる(すべ)は、ないけれど。  もし、もしも。  それが自分に向けられたものならば、  なんとかしてあげたい。  力及ばずとも、手を差し伸べることくらいは、  ただの人間にだって出来る。  だから、 『……おね、がい』  姿も名前も知らぬ、夢の中の幻だとしても。 『だれか…………たすけて』  どうか、泣かないで。  きっとあなたを、助けるから。
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