ラジオ

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絢音(あやね)はどちらかと言うと、テレビよりラジオ派や。 一応テレビ見とることもあるけど、基本はラジオや。 同棲始めた頃に買ってやった、持ち運び出来る小型のラジオを側に侍らせて、毎日何か聞いとる。 そんなんやから、ワシもテレビ見る習慣がのうなってきて、あれだけ好きやった野球中継も、絢音と一緒にラジオで聞くようになった。 阪神対広島なんて流れたら、もう…夫婦喧嘩一歩手前の大口論。 小さいラジオの前で、お互いの贔屓球団の一挙手一投足に一喜一憂して、時々喧嘩もしたが、楽しいひと時を過ごしてた。 その絢音が、最近熱心にラジオ局にハガキを送るようになった。 何をリクエストしとん?と聞いても教えてくれず、なんやろなぁと疑問に思いながらも、特に気にも留めず、日々は目まぐるしく過ぎて行き、ワシの48回目…結婚して間もなくの誕生日…5月17日が来た。 「藤次(とうじ)さん。お誕生日おめでとう!」 「おおきに。絢音。」 ちゃぶ台いっぱいに並べられた料理と、手作りケーキを2人で食べていたら、やおら絢音がソワソワしだしたので、ワシは怪訝な顔をする。 「どないした。トイレか?」 「ううん違うの。あの…えっと…」 「?」 なんやろと首を傾げていたら、いつもこの時間聞いているラジオのDJの流暢な声が耳をつく。 「ほんなら次のお便り行きましょか〜。ラジオネーム「トウジさん大好きっ娘」さん。…うわ!トウジ言うんが何者か知らんけど、めっちゃ愛されとるやん!…ほんで内容わぁ〜」 …えっ?! トウジて…しかも大好きって…もしかして、そのラジオネーム…絢音か? と言う事は、今から読まれるのは、絢音が熱心に送ってた、ハガキ? トウジなんて名前、そんなにあるもんやないしと、ドキドキしながらラジオを聴いていると、DJの半ば呆れたような声が耳をついた。 「あかんわ。こないな文章わて読めまへん。小っ恥ずかしい。せやけど、仕事やから読ませてもらいますわ。「トウジさん。お誕生日おめでとう!私と結婚してくれてありがとう。ホントに私、幸せです。ずっとずっと、愛していくからね❤︎」…やと。はぁ〜新婚さんかいなぁ〜うらやましなぁ。トウジさん、お誕生日おめでとうさん。いつまでも、トウジ大好きっ娘さんとお幸せになぁ〜」 ほな次は〜と進行していくDJ。 ふと見やると、真っ赤な顔をした絢音。 「おまっ…地方局とは言え、何公共の電波使って…こんな…」 「だって、自分でいうの…恥ずかしかったんだもん。」 そう言って益々赤くなる君を見つめているうちに、段々嬉しさが込み上げてきて、ゆっくりと君を抱き締める。 「なあ、聞かせて?お前の口から。愛してるって。」 「イヤよ。恥ずかしい…」 「イケズ。ええやん。新婚やろ?な?お願い。」 そう言って優しく笑ろたったら、恥ずかしがりながらも、君の可憐な唇が言葉を紡ぐ。 「藤次さん……愛…してる……」 「…おおきに。ワシも、ずっと愛してるえ?絢音。」 そうしてゆっくり、君の左手を持ち上げて、薬指に光る結婚指輪にそっと、誓いのキスを落とした…
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