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エピローグ
「お前、K3がなんで "静かな星" って呼ばれているか知ってるか?」
「えっ、なんすか急に。」
宇宙船ブルー・ウルフ号に乗り合わせていたクルー、ライアンの思いがけない質問に、新人クルーのチャーリーは戸惑いを見せた。というのもこれから、移住先となりそうな惑星を探す旅に出るところで不安な時に、そんなことを聞かれるとは思っていなかったからだ。不安な気持ちはライアンも同じだろう、と彼は考えていたのだ。
「K3ってあれっすよね、太陽系外惑星単独型探索グループが探検に行って、最初に1人、次に3人が行方不明になったっていうあの、惑星っすよね。確か帰ってきたのが女性オペレーター1人だったとか……」
「新人なのに、よく知ってんじゃねぇか。」
ガハハ、と笑いながらライアンはチャーリーの背中を思い切り叩く。彼のゴツゴツした大きな手は岩のように固い。
ありゃ夏頃に行ったのがまずかったな、とライアンはうんうん、と頷きながら続ける。
「あの星は海辺に降りたら最後。幻覚見せられ幻聴聞かされ挙句の果てには眠らされて、海に溶けて海藻どもの餌になる。薬物やってる奴と同じくらい解放感がやばいんだとよ。」
「ひええ。」
一瞬たりとも星に降りることができないですね、と怯えた声で返すと、いやそうでもない。とライアンは首を振りながら話を続ける。
「夏が来ると眠らされるから、夏が来ないうちは大丈夫だ。ただ幻覚と幻聴の影響は、海岸線一帯に及んでるらしいから、俺たちはそこら辺を避けつつ探索することになるぞ。」
ライアンは腕組みをし、大袈裟にモニター画面を指でなぞる。その姿はチャーリーの怖がる様子を少し楽しんでいるようにも見えた。
誰もいない、何もない静けさの中で、惑星K3は今でも100年に1度の夏を、来訪者を、待ち続けている──
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