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3日目
上陸3日目にしてショウは宇宙服を海岸に脱ぎ捨てた。危険かもしれないから外出時に宇宙服を着用することはバトラー船長の命令だったが、もうその必要は無いように思えた。
大気の組成も重力も、そして気温だって問題ない。それなのにわざわざ動き難い宇宙服でリファナさんとデートなんて勿体ない──
同じ光景、同じような静寂、同じように生命の気配がない海辺……それが3日も続いていたというのにショウは楽しくて仕方がなく、このまま地球に帰るのは惜しいとまで考えるようになっていた。
ただ一つ、いつもと違っていたのはリファナの表情だ。それまでも笑っていると言えば笑っていたのだが、いつものそれは「静かな微笑み」とでも言うべきものだった。
しかしその日の彼女はそんな微笑と違って明るくいきいきしているように見えた。
「何かいいことがあったの?」
その日もリファナと一緒にいたショウは、疑問に思っていたことを彼女に尋ねた。
(もうすぐ、夏が来るんです。)
今にも踊り出しそうな興奮した波長がショウの脳内に伝わる。少女の視線の先──水平線の彼方が昨日までよりも少し明るくなっていた。
(会えたのがあなたで、本当に良かった。)
唐突にそう言って彼女は岩から音もなく海岸に降り立ち、暗い海に向かって歩を進める。
あまりに唐突な動きにショウは慌てて彼女を追いかけ、冷たい海の中にじゃぶじゃぶと入っていった。
「リファナさん、待って!」
(さよなら、そしてありがとう、ショウさん──)
最後にショウの名を呼び、深緑の髪の美少女は腰まで浸かった海に溶けるように姿を消した。
黒点が増え、活発化したプロキシマ・ケンタウリの太陽が、やがて惑星K3の海と陸地を明るく照らし始める。少女が消えた海の底には最初から誰もいなかったかのように、ただ深緑色の触手がゆらゆらと動いているだけだった。
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