プロローグ

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プロローグ

プロキシマ・ケンタウリは、太陽系に最も近い恒星として知られている。しかしその星に行くには光のスピードでも4年以上かかる。 「ハビタブルゾーンはこんなに近くなのか……。」 「ま、プロキシマ・ケンタウリの太陽は小さいからな……ショウ、確認してくれるか?」 イギリス人のバトラー船長の指示に、クルーの1人であるショウは改めてパネルを覗いた。 "ハビタブルゾーン" とは、水が液体で存在し得る惑星位置の事であり、その範囲に位置さえしていれば、少なくとも気温的にはその星は居住可能だ。 上陸する予定の青い惑星 "K3" は、恒星から750万kmしか離れておらず、その距離は太陽と水星よりもずっと近い。 「大気の組成はどうだ?」 「はい。窒素78%、酸素21%、アルゴン0.98%、二酸化炭素0.02%、誤差は0.05%です。」 事前に飛ばした衛星からのデータを、オペレーター兼副操縦士のリーズが報告した。二酸化炭素がやや少なく酸素がやや多いことを除けば地球とほぼ同じ環境だ。完全に安全とは言い切れないが、メンバーの顔に虚脱したような安堵の色が浮かぶ。 ──ショウを除いては。 「……船長、本当に大丈夫なんですかね。」 「ん。何がだ。」 ちょうど宇宙食を口にしていたバトラーが、振り返りながらショウに問いかける。 「ジェイクです。7年前にK3に行ったきり、あいつ帰ってこないじゃないですか。あの惑星に行けば感情をなくすという噂もありますし。」 ジェイコブ・スミス── 人類史上初の太陽系外惑星上陸チームに所属していた男で、ショウと同じくクルーだった。1人乗りの宇宙船で単身K3への上陸を敢行し、それが成功した後数日で、彼は行方を晦ました。 あれから7年──彼が生きているのか死んでいるのか未だに分からないまま、今は船長、ショウ、リーズ、そして元空軍のハリー・ブラッドがチームを引き継ぎ、K3に向かうこととなっていた。 「なに情けないこと言ってるんだ。」 バトラーは大袈裟にため息をつき、話を続ける。 「今回の目的は移住の確認だ。行方不明の奴の居場所や噂の真偽は関係ない。ジェイクができなかった事を我々がやる。ただそれだけだ。」 「しかし……」 「さあて、これより上陸だ!」 なおも疑念を口にしようとするショウの声をかき消すように、また、さっきまでの言葉をなかったことにするかのように、ようやく見えてきた蒼い惑星K3を眼前に、船長は高揚した声で叫んだ。
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