機織

本編

田舎者の俺が知らなかっただけで、この辺りでは加藤組のフロント企業が不動産経営をしていることが周知の事実だった。

そんな中、名字が加藤に変わった俺は教員も含めてみんなに特別扱いをされるようになった。

課題が進んでいなければ、少しなら遅れても大丈夫だと言われ、着る物が豪華になっても納得されるだけ。誰も事情は聞いて来なかった。

「あのコート、新作だよね？」
「きっと、そうだよ。いくらするんだろ〜。」
「でも、横峰くん…あっ、加藤くんなら…ね。」
「確かに…憧れるよね。いつも違う服。しかも有名ブランドばっかり。」

こんな会話が毎日だ。小声で話しているつもりなのだろうけど、聞こえてくる。
最初は憧れのブランドを着るのに震えていた身体も今はなんともなくなった。
ただ、新作のデザインを見るたびに高揚する感覚が無くならなくてホッとした。

まだ、夢がある。それが幸せに感じる。