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口に残る味は少し甘くて、その甘さをかき消すために急いで目の前にあるコップを飲み干した。
「すみ、それ俺のだけど。」
「え?わっ…マズイ…。」
「すみにはまだ早かったかな。」
笑いながら俺が飲み干したコップにまたお酒を注ぎ入れる。
いつも通りに食事は進んでいくのに俺の身体はそうではない。心臓がバクバクして汗ばんできた。そして、敏感な部分に熱が集中してしまう。
「っ、あつい…。」
「だろうな。」
たまたま漏れた心の声をニヤリしてこの人はひろいあげるのだ。
「本当なら食べ終わるくらいに効いてくるのにな。すみが酒なんて飲むからな。」
「なら、もう帰ろうよ。」
「残すなよ。」
俺の言葉に対してアンバランスだ。
食べ終わるまで解放してくれない。こんな状況で何を口にしても味がしない。
俺が急いだところでこの人のペースは変わらない。普通に食事を楽しんでいる。
「お願い、もう…。」
「しつこい。」
まわりの空気が冷たくなった。俺の身体も少し熱が引いた。
それくらい放たれた言葉が、目線が怖い。
最初のころは何度も抵抗をして怒らせた。
最近はなかったのに…怒っているかもしれない。
家に帰ってからが怖くて涙が勝手に溢れてくる。「食事は美味しく食べろ」と言われてきたのに、それもできない。
身体が震えてきて箸も上手く扱えない。
怖くて震えているのか、与えられた薬のせいなのか、地獄のような時間だけを感じていた。
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