1人が本棚に入れています
本棚に追加
さて、男はやっと新興宗教団体から開放された。実に人生の大半を新興宗教団体に支配され、搾取された末のやっとの開放であった。歳は75歳を迎えたばかり時の話である。
献金であるが、少額ではあるものの惰性によって続けていた。新興宗教団体の現代表の贅沢三昧の動画公開までである。公開された当初は「ああ、やっぱり」と言うアッサリとした感想しかもてなかった。
両親も親類縁者も、新興宗教団体の消滅により心の拠り所を喪ったのか、バタバタと続けて亡くなっていった。男とその妻だけは新興宗教団体の消滅を「因果応報だ」と笑ってはいたものの、我々信者から吸い上げてきた幸せと比較して「軽すぎる」と怒りの気持ちもあった。
元信者達の集団訴訟も「極めて少額」しか取り戻せずに幕引きをされ、世間が新興宗教団体のことを忘れかけた頃、男は家に遊びに来た孫娘に相談を受けていた。
「ねえ、じいじ? あたし、大学行くことにした」
男の孫は17歳、自分の進路を決める年齢となる。儂も同い年くらいの頃に大学に生きたいと両親に言ってはみたが、信仰によってそれを阻まれてしまった。懐かしみつつも、子供を早く就職させて献金マシーンに仕立て上げるためのクソにも劣る教義のことを思い出して腹を立ててしまう。
「あ、ああ…… じいじは大学行けなかったからなぁ。お前ら孫には是非とも行って貰いたいと思っとる」
「亡くなった曾じいじや曾ばあばのお家はお金なかったの?」
「あ、いや…‥ そうじゃないんだけどな」
さすがに「新興宗教の教え」で大学に行けなかったと言われても理解が出来ないだろう。何より、孫娘にあの宗教のことを知られなくない。男は口を噤んだ。
「あたしね、看護大学に行きたいんだ。厳しいとか、辛いとか、キツイとかって言われてるけど。誰かがやらなきゃいけないんでしょ? あたしが入院した時に看護師さんに優しくされてね、ああいう人になりたいって思ってるんだ」
孫娘の立派な志に男は感動した。その頭を優しく撫でる。
「そうかぁ、看護師さんになりたいんかぁ。立派やのう」
祖父(男)の遠い目を見た孫娘は、特に考えも無く冗談交じりに口走った。
「じいじも大学行ってみたら? ほら、大学って歳とか関係なく入れるもんだし?」
「うーん、浪人とかで数年の遅れて入る人もおると聞いているがなあ。限度があるのではないか?」
「無いよ! 限度なんて! いくつになっても大学って受験資格あるし、誰だって大学生になる資格はあるんだよ!」
最初のコメントを投稿しよう!