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まじょのたんじょうび
むかしむかし、とおいくにの もりのなかに まじょが すんでいました。
まじょは まほうで なんでも できました。 びょうきも けがも なおせます。 おかたづけも つえを ひとふり するだけで いえじゅうが ぴかぴか。
まいにち まじょは いえを ぴかぴかに して おかしと おちゃを じゅんび します。 もりの ちかくに ある むらの ひとたちが いつ あそびに きても おもてなし できるように、 まじょは どんなひも ぜったいに じゅんび します。
でも、 むらの ひとたちは だれも まじょの いえには ちかづきません。 まじょの いえに いくと たべられてしまう と おもっている からです。
あるひ、 むらに すんでいる アンディ という おとこのこが もりに あそびに いきました。
「とおくに いっては だめよ。 もりの おくには こわい まじょが いるからね」
アンディの ママが いいました。
「はーい!」
アンディは げんきに へんじを しました。 けれど、 もりで あそんでいる うちに アンディは まいごに なってしまいます。 アンディが こわくなって なきながら あるいていると あまい においが してきました。
「おかしの においだ!」
アンディは うれしくなって もりの なかを はしります。 きっと おうちが みえると おもって いましたが、 みえたのは みたことのない しらない おうち でした。
くろい くろい おうちは ちょっぴり こわかった けれど、 おかしの においに つられて アンディは とびらを あけます。
「こ、こんにちは……」
おかしを もらえると いいな、 とおもって とびらを あけた アンディは びっくりして かたまります。 とびらの むこうには まじょが いたからです。
まじょは アンディを じっと みています。
(まじょの いえ だったんだ!)
(にげなきゃ! たべられちゃう!)
アンディは にげようと おもいましたが、 こわくて こわくて あしが うごきません。 まじょが アンディに ちかづいて きます。
(たすけて、パパ!)
アンディは ぎゅっと めを とじましたが、 いつまでも いたい ことは されません。 そこで アンディは そっと かためを あけて まじょを みてみました。
まじょは アンディの ちかくで アンディを みつめたまま なんかいも くちを ぱくぱく していました。
アンディは ゆうきを だして もういっかい あいさつを してみました。
「こ、こんにちは、まじょさん」
すると まじょは びっくりして すこしだけ アンディから はなれました。 それから ちいさな ちいさな こえで こたえました。
「こん、にちは……」
まじょの こえは アンディが おもっていたより ずっと たかくて かわいい こえでした。 なんだか まじょが こわくなくなった アンディは まじょに えがおを みせました。 すると、 まじょも すこしだけ わらって くれました。
「わたし、 ずっと ひとりぼっち だから じょうずに はなせないの」
まじょの つくった おいしい おかしを たべながら アンディと まじょは おしゃべりを していました。 すっかり まじょが こわくなくなった アンディは まじょが むらの ひとたちから こわがられている りゆうを きいて みました。 すると、 まじょは かなしそうな かおを して はなし はじめました。
「いつも だれが きても いいように じゅんび するけれど、 だれか きても はなせなくて、 みているうちに にげられて しまうの。 だから いつも ひとりぼっち」
まじょは むらの ひとたちが いうような こわい まじょ では ありません でした。 すこし まほうが つかえる だけの ただの ひとみしりの おんなのこ でした。 そして アンディと おなじ さみしがりやの おんなのこ でした。
「あしたも ぼくが あそびに くるよ!」
まじょが かわいそうに なった アンディは やくそくを しました。
それから アンディは ほとんど まいにち まじょの おうちに あそびに いきました。 まじょは いつも おかし と おちゃ を よういして まっていました。
あるひ、 いつもの ように もりへ あそびに いこうと した アンディを パパが とめます。
「アンディ、 きょうは おうちで パパと あそぼう。 きょうは ぜったいに もりへ いっては いけないよ。 まじょが いちねんで いちばん こわいひ だからね」
アンディには パパの いっている ことが わかりません。 だって、 アンディは まじょが こわくない ことを しっています。 おうちから だして もらえない アンディ でしたが、 こっそり ぬけだして もりへ いきました。
すると いつも やさしい まじょが とおりすがりの おとなから ふくを とって いました。 アンディは びっくり します。 アンディは すこしだけ また まじょが こわく なって そのひは すぐに おうちに もどりました。
だけど、 アンディは つぎのひも まじょの おうちに いきます。
(おともだちが わるいことを していたら おしえて あげなくちゃ!)
アンディが まじょの おうちに いくと まじょは ないて いました。 それでも アンディが きた ことに きがつくと まじょは つえを ふって おかし と おちゃ をだして くれます。 アンディは きのうの ことを おこる つもりで きましたが、 まずは まじょの ないている りゆうを きいて みました。
「どうして ないているの?」
「さみしいの。 きのうは わたしの たんじょうび だったから ふくを もらったの。 だけど さみしいの。 なんだか すごく かなしいの」
ふくを もらった というのは きのう おとなから とった ことだと アンディは しっています。 アンディは びっくり しました。 まじょは おたんじょうびの プレゼントが、 ひとから とる ものじゃ なくて、 おともだちや かぞくから おいわいで もらう ものだと しらなかったのです。
「それはね、 まじょさん」
アンディは まじょの てを にぎって、 とっても やさしい こえで いいます。
「たんじょうび プレゼントは とる ものじゃ なくて、 おともだち や かぞく が こころを こめて くれる もの だからだよ。 とった ものには おいわいの こころが こもって ないから さみしいんだよ。 それに ひとの ものを とるのは わるい こと なんだよ。 わるい ことを しちゃった から かなしく なったんだよ」
まじょは アンディの ことばで もっと なきました。 いままで いちねんに いっかい、 たんじょうびが くると ひとから ものを とって いました。 ずっと わるいことを していた のだと はじめて しったのです。
「どうしよう……わたし、 ずっと わるいこと してた」
かなしくて かなしくて なく まじょを アンディは やさしく だきしめます。 それから ママ と パパ が してくれる みたいに まじょの せなかを なでて あげました。
「わるい ことを したら ごめんなさい って いうんだよ。 とった ものを かえして ごめんなさい しよう。 それで、 つぎ からは もう しなければ いいんだよ」
「ごめんなさい……うん、 ごめんなさい する」
まじょは ごめんなさい の おてがみ を かいて、 おいしい おかし と うばった ものと いっしょに、 もとの もちぬしたちに かえしました。 まじょの ごめんなさいの おくりものは とおくに いるひと にも まほう で とんで いきました。
おてがみ には ひとみしり だけど さみしがりやな ことも、 ほんとうの おたんじょうび プレゼントを しらなかった ことも、 もう わるいことは しない ことも、 かきました。
それから いちねん が たちました。 きょうは まじょの たんじょうび です。 まじょの おうち から たくさんの わらいごえ が きこえます。 そう、 もう まじょは ひとりぼっち では ありません。 おいしい おかし と むらの みんなに かこまれた まじょは、 アンディと てを つないで、 うまれてから いちばん の えがお を うかべました。
――おしまい
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