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あめふらし 1
長い期間入院をしているこの病院の病室には、もちろん窓だってある。
けれど、私には外の景色を見ることは出来ないので、今日がどんな天気なのかわからない。
いや、雨の時だけは雨音が聴こえることがあったので、時々はわかる日もあった。
「やあ、遅くなったね。仕事が長引いたんだ」
『お疲れ様。待ってなんていないから、無理をしてまで来なくたって大丈夫なのに』
「花屋には寄れなかったから、コンビニのスイーツ。ここに、置いておくね」
『私、食べることは出来ないから、貴方どうぞ』
彼は、簡素な丸い腰掛けに鉄パイプの棒が三本生えている椅子を引っ張って来ると、私の横たわるベッドへと近づける。
もう片方の手でコンビニ袋をゴソゴソと漁って、中から取り出した何か、多分コンビニで購入して来たお菓子を私の目の前に翳し、枕の脇にある棚に乗せる。
瞼の内側が暗くなったり、明るくなったりするから、彼が私に何かを見せようとすると、その行為自体には気が付くことが出来る。
けれど、瞼は開かないようにテープでとめられているし、自力で開く力もなかったので、言葉での説明がないと、彼のしていることを把握することは不可能なのだ。
「…今日も、一日、良い天気だったよ」
『…そうだね』
「…きっと、全部、良くなるからね」
『…そう、だね』
サアッと、小雨が風に煽られて窓に叩きつけられる。
聴こえないふりをして、私は肺に酸素を送る為に切開され機器を埋め込まれた喉で、声を作る。
けれど、それらは誰にも届きはしないのだ。
だって、私は所謂、植物人間と言われる状態にあるのだから。
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