あめふらし 2

1/1
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

あめふらし 2

 ふふふ。  ねえ、君は思いもよらないでしょうね。  私が、こうして君がいつまでだったならば訪れてくれるのか、日々を数えているだなんて。  ねえ、君は思いもよらないでしょうね。  家族が、そろそろ私を諦めた方が良いと、担当の医師から説得されているだなんて。   …いつまで、会えるかな。  管のたくさんつけられた、内側を上向きにされた腕の先で、何かぬくいものが手の平を握る感触に、生きている心臓が跳ねる。  脳みそはダメになってしまったから、細かい記憶や緻密で小難しい感情は理解しかねる。  それでも、温度と言うものはとてもダイレクトに命を伝えて来るもので、彼が生きていると感じると喜びに皮膚が泡立った。  そう、私は彼が誰なのか知らない。  けれど、毎日会いに来てくれて、私の名を呼んで指を絡める。  兄や弟、恋人や親しい友人。  一体どれが正解? 「…俺、亜由美のところへ、行こうかなあ」 『私は、ここにいるでしょう、どこに行くと言うの』 「…嘘をついてごめん。今日は一日雨だったよ」 『知っていたから、気にしてない』 「きっと明日は、晴れるから」 『…泣かないで』  ― それでも、私の身体は動かない。 「全部、良くなるからね」 『全部、良くなるからね』
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!