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「菜々子さあ、あんた、騙されてるから」
目の前に座る梨花が、片肘をつきながら、大きくため息をつく。
「そろそろ彼氏にガツンと言った方が良いって。そうしないとこれからも、たかられ続けるから」
「うん」
私はカップを手に取り、カフェオレをちびりと飲む。
「ねえ、聞いてる? これ、何回も言ったのに、全く改善してないでしょ」
「うん。分かってる」
「いいや、分かってない」
彼女がこちらをにらんでくるので、私はプイと視線を逸らした。
梨花とは、大学からの友達だ。社会人になっても休みの日はこうやって一緒に買い物することがある。そして、買い物の後は、駅前のカフェに行くのがお決まりだった。
「そもそもさあ、事業って何の事業なの」
梨花はそう言って、ホットコーヒーをずずずっとすする。
「えっと、IT関連って言ってた」
「ITって声高に言うやつでろくな人間いない気がするけどね。それで、お金はいつ返してくれるって?」
「事業が成功したら返すって」
「はん。それはいつになるのよ」
梨花のぞんざいな口調に、ムッとする。もちろん梨花が私のことを心配しているのは分かるが、そんな言い方はないのではないのだろうか。
「本人にさあ、聞いてみたら良いんじゃない?」
梨花がこちらに顔を近づける。
「聞くって、何を」
「何もかもよ。お金は具体的にいつ返すんですか。事業って本当にちゃんとやってるんですか。このまま私を金づるとして扱うんですか」
「な、そんな、聞けるわけないよ。そんなこと」
「聞けないってことは結局、彼のことを疑っているんでしょ」
「そんなことは」
ない。最後まで言葉が続かなかった。
「そろそろ問い詰めた方が良いよ。これからも付き合っていくんだったらさ」
そんなことを言う梨花は、背もたれに体を預け、優雅にコーヒーを飲む。
私は下唇を噛む。こんなこと言う梨花にも腹がたったが、何も言い返せない自分にもっと腹がたった。
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