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私達はファミリーレストランを出た。外は風が強く、体は凍えそうだった。
「寒いなあ。早く春が来ないかなあ」
彼がしゃべると同時に、口から白い息が昇る。
「うん。そうだね」
「温暖化って言ってるのに、なんで冬はこんなに寒いんだろう。冬だけ温暖化になってくれたら良いのにな」
「はは。私もそれ、思ってた」
「よし、じゃあ行こうか」
彼が左手をこちらに差し出してくる。
「うん」
私は彼と手を繋ぐ。手袋ごしでも、その温もりは伝わってくる。
「春になったら、花見だなあ」
彼が細い目で遠くを見ながら言った。
「百貨店の裏に、細い川があるだろ。あの両岸の桜、めちゃくちゃきれいなんだ」
「へえ。そうなんだ。見てみたいなあ」
「ああ。一緒に行こうよ」
彼がニッと無邪気に微笑むので、私も笑みを返した。
私達は寒空の下、体をくっつけて歩いていく。隣に隆史がいる、それだけで私は幸せだった。来年も再来年も、ずっとずっと隆史と一緒にいたい。それだけを願った。
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