チェーン・ラブ

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私は暗い部屋で一人、ソファに座りじっとしていた。頭の中には、隆史に言われたことがずっとリフレインしていた。 今までは、お金を貸してと言われても、すぐに貸してあげることができた。しかし、100万円と言われれば、それは尻込みしてしまう。まさに桁違いの数字に、私はたじろいでいた。そして、私は何より恐れていた。隆史は私の元を去ろうとしているのではないか、と。 このまま金づるとして扱われるんじゃない? 梨花の言葉を思い出す。私は、金づるでも良いと思っていた。それで隆史の横にいられるなら、私はどれだけでもお金を払おうと思っていた。しかし、隆史が100万円という数字を提示したのは、これで私と別れるためではないか。ここで100万円を貸せば、隆史は私の元を離れるかもしれない。いや、仮に断っても、隆史は私との付き合いをこれきりにするのではないか。 壁に掛かった時計の音が、やけに耳につく。秒針まで私を急かしているように感じてしまう。 もしかしたら、本当に事業が軌道に乗るのかもしれない。私の中に、希望が膨らむ。そうすれば、今までのお金も返してくれるだろう。それだけではない。もっと美味しいご飯を食べたり、旅行にだってできる。結婚の話もしたい。 しかし。 それを信じきれない自分がいた。これで全てが上手くいくとは、思えなかった。 「隆史……」 100万円を失うことより、隆史を失うことの方が怖かった。いつもすぐそこに掴むことができた幸せが、私の手をすり抜けようとしていた。
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