チェーン・ラブ

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「100万円?!」 目の前の席に座る梨花が、大きな声を出す。目が見開き、鼻息が荒くなっていた。 「100万円を貸してほしいなんて、有り得ないでしょ。いくら付き合ってるからって、その金額はおかしいから。まさか貸すつもりじゃないよね」 「100万円はもう、渡した」 「はあ!? 何してるの? 騙されてるって。やっぱり返してって言いなって」 「連絡は、取れなくなった」 その言葉に、梨花の表情が凍りつく。 「連絡が取れないって、電話もメールも繋がらないってこと?」 「うん」 梨花の鋭い視線が、私に向く。 「菜々子、警察に言おうよ。これは完全に詐欺だよ」 強い口調で言ってくるが、私は首を左右に振る。 「なんでよ。100万円を騙し取られたんでしょ。警察に言わなきゃ」 「100万円は、彼にあげたお金だから」 「いいかげんにしなよ。100万円だよ。1万や2万じゃないんだから。これは立派な犯罪だから」 「声が大きいって」 周りのお客さんは、何事かと、私達をジロジロと見ていた。 「ずっとおかしいと思ってたの。毎度毎度あんたからお金を借りて、返す気もなさそうだし。最初から、大金を騙し取ろうとして近づいたに決まってるじゃない。気の弱い菜々子なら、100万円くらい奪えるだろうって思って。それで、目的の大金が手に入って消えるなんて、もう完全に詐欺師の思い通りになっただけじゃない」 私は梨花の言葉に何も言い返せず、ただ机の一点を見つめていた。 「私は忠告したからね。絶対に警察に言うんだよ」 梨花はそう言って席を立ち、店を出て行った。入口のカウベルが悲しげに音を鳴らす。 私は一人取り残されて、その場から動けずにいた。周りのお客さんはまだ、チラチラとこちらを見ていた。カフェオレを飲もうとカップを口に運ぶ。しかし、カフェオレはすっかりと冷めていて、味がしなかった。
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