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第1話
「ねぇ、絶対に秘密だよ」
それは、彼女と映画を見た後でのことだった。
レストランで一緒にランチを食べながら、さっき見た映画の感想を言い合っていると、突然彼女が俺にそう言った。
「私、実は異世界からきたの……って言ったら、君は、信じてくれる?」
そう言った彼女の瞳は、真剣だった。
***
高嶺 遥香は、俺の彼女だ。
高校1年生の時に同じクラスになり、三学期の終わり頃、俺の方から告白をした。
俺は、まさかOKがもらえるとは思っていなくて、本当にいいの、と何度も聞き返してしまった。
何せ彼女は、美人でスタイルも良く、上級生の何人かが告白してフラれた、という話を何度も耳にしていた。
それに比べて俺は、クラスでも冴えない男判定を入学して早々に下されてしまい、それ以来、事務的な用事以外で俺に話しかけてくれる女の子なんて、ほとんど皆無だった。
高校デビューなんて俺には無縁の話で、とにかく波風立てないよう、平穏無事に高校生活を過ごせれば、それで良かった。
でも、そんな俺の目の前に、高嶺 遥香が現れた。
彼女は、二学期の途中に転校生としてやってきて、幸運なことに、俺の隣の席の人となった。
正直、俺の一目惚れだった。
世の中に、こんなに綺麗な子がいるのかと、俺は驚いて彼女を見つめた。
クラスにも可愛い女子はいたけれど、彼女はまるで別格の存在だった。
真っすぐな黒髪は腰の辺りまで伸ばされ、色白の肌に、大きく澄んだ瞳とすっと通った鼻筋、さくらんぼ色の唇がバランス良く顔のパーツに納まっている。
細い首筋に華奢な肩、長い手足、身長は、160cmはあるだろうか。
そして、何より制服の上からでも解る程の胸の膨らみは、大きすぎず小さすぎもせず、俺の理想とする大きさと形をしていた。
彼女が教室の机と机の間にある通路を歩くと、その長い絹のような黒髪がさらさらと音を立てて揺れるようだった。
彼女は、歩き方さえ洗練されていて、スカートの裾から延びる、ほっそりとした白い脚がやけに色っぽく、クラス中の男子生徒がどうにかして彼女の揺れるスカートの裾から白い太ももが見えないものかと目を凝らしているのが解った。
教室の一番後ろにある俺の席まで彼女が来ると、俺は緊張して顔を俯けたまま、絶対に顔を上げてはだめだと自分に言い聞かせた。
もし、彼女が俺に一言でも声を掛けて、それに俺が一言でも何かを返したとしたら、きっとクラス中の男子生徒たちを敵に回すことになるだろう。
けれど、そんな俺の心配は杞憂に終わった。
彼女は、俺に一言だって声を掛けることもなく、隣の席に座ったのだ。
その時、彼女の方からふわりと甘い花の香りがした。
香水のような強い香りではなく、シャンプーか柔軟剤から香るような優しい香りだ。
それだけもう俺は、彼女のことが好きなっていた。
休憩時間になると、彼女の机の周りには、クラスの女子生徒と男子生徒のほとんどが群がった。
皆、口々に彼女について色々と質問を浴びせていたが、俺は、女生徒たちに邪魔だからどけろと言わんばかりに睨まれてしまい、早々に席を譲って教室を退散したので、彼女が彼らの質問に何と答えていたのかは、まるで知らない。
とにかく、その時の俺は、彼女のことを〝高嶺の遥香さん〟としか思っておらず、まさか彼女が俺の恋人となってくれる日がくるなんて、夢にも思っていなかった。
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