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「無理だよ……聡ちゃん……」
唯ちゃんは今度は空を仰ぎ、深呼吸をすると、そう呟いた。
「どうして?僕は唯ちゃんの事を、からかってなんかいないよ?……本気なんだ!!」
「それは分かっている……けどね?私は聡ちゃんより10歳も歳上だし、子供もいるの……」
「……そっか……結婚してるんだ……じゃ、旦那さんもいるんだね……」
僕は、そう言うと力無く、その場にヘタリ込んだ。
「ううん……旦那は……一昨年前……交通事故で……もう……」
それを聞いた僕はビックリして唯ちゃんの顔を見つめた。
「ご、ごめん……辛いんだね……唯ちゃん……」
「ううん、大丈夫だよ。今は子供を養う事で精一杯だから、悲しんでばかりもいられないしね?」
唯ちゃんは仰いでいた空から視線を僕に向け、精一杯の笑顔を見せてくれた。
その、いじらしさに僕は……。
唯ちゃんを守ってあげたいと強く……強く強く思った。
僕は立ち上がると再び唯ちゃんを抱きしめ、今度は僕が唯ちゃんの背中をポンポンと叩いてあげた。
「……ありがとう、聡ちゃん。」
「ううん、僕には、こんな事しか出来ないから……」
「うん、その気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう。私の事、好きだと言ってくれて……」
唯ちゃんは僕の腕から再び、すり抜けると優しい眼差しで僕を見つめた。
「そういう訳だから……付き合えない……ごめんね?……聡ちゃん……」
「ど、どうしても?」
「う〜ん……私の弟子にならしてあげるよ?」
唯ちゃんは、そう茶化すとサッと走り去ってしまった。
唯ちゃん……。
僕は唯ちゃんの心中を思うと心が痛くなった。
弟子か。
うん、それでもいい。
唯ちゃんの傍にいられるのなら……。
僕は唯ちゃんとは反対方向を向き、何度も何度もリフトでパレットを積む練習をした。
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