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最後の過ごし方
「感じられるかい? これ、風だよ」
「風?」
何も見えないけど。
「この空気の動き! これが風だ!」
先輩は興奮して叫んでいた。
ビュッと音を立てて空気が動く。
これが風。
「こんなこと教わらなかった!!」
先輩がはしゃいでいる。
「うわっ、足元がグニグニしてる」
「靴にくっつくんですけど」
「これが土かぁ」
「あー。それじゃ向こうに見えるのが木とか森ですかね」
「すごい。本で見る何倍も素晴らしいよ!」
「先輩はこれが体験したかったんですね」
「うん。そうなんだ」
先輩が真剣な表情で見つめてくる。
「付き合わせてごめん」
「何言っているんですか! ワタシは先輩の彼女なんですよ。先輩の夢に付き合うのは当然です」
「ありがとう。ボクは一度でいいから、『自然』というものを体験してみた
かったんだ。本やライブラリーじゃなくて。死ぬことになってもね」
先輩は下を向いて黙り込んでしまう。
「何泣いているんですか。最初のデートなんですよ。楽しみましょうよ」
「そうだね」
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