18人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章 尊と命 第1話 諒闇
高宮の父親、来生の魂は、水景 瑜伽が導き、浄界へと送った。
来生の魂を飲み込んでいた怨念を持った魂は、執着を滅し、救済という形を持って導いた。
そして、下界において行っていた臨時祭は再開され、国主の位を継ぐ、践祚を行い、高宮 右京が国主となった……。
全ての神社、寺院に立ち入る事が出来、皆から総代と呼ばれる当主様は、元より国に仕える官人陰陽師であったが、神祇伯がその全てを担い、国は陰陽師の役職を廃した。その神祇伯は、水景 瑜伽だ。
陰陽師の役職を廃するのは、前聖王の意向でもあったものだが、高宮が国主となっても、それは決められた。
だが、その理由には、呪術というものが民間に流れ、人の行く末にまで影響を及ぼす事が、事象となって現れてしまった事に、国の独占であった呪術が、呪いを肯定させない為でもあった。それを示す事で、呪術というものが本来、どのようなものであるのかを明確にし、加持祈祷を鎮護国家の名の下に置く事が、民間に対して呪術を抑制する声明でもあった。
「なあ、蓮……」
溜息混じりに口を開いた羽矢さんの表情は、少し翳りを見せている。
その表情と声色で、蓮は心情を察する。
「縦の系列が横の系列になり、前聖王を善か悪かで言ったら、どっちになるか……だろ?」
「……まあな」
「縦だろうが横だろうが、血族は血族だ。高宮 来生とは兄弟、高宮 右京にとっては叔父だろ」
「叔父……ね……」
「なんだよ? はっきりしねえな」
「それなら、位を受け継いだのは、兄ではなく、弟って事だろ」
「そこに何の問題があるかって事か? まあ、そこに至る経緯だろうな。事実、追い出されている訳だし……」
「まあ……問題というよりな……あの時、前聖王の死は総代の言葉でもはっきりしたが、魂には、そこまで深い執着がなかったんだよ。執着を見せていたのは、周囲から集められた魂の方だ。その執着が怨念を膨らませ、聖王の魂までも染めてしまったんだからな」
「ああ……あの神社にあった人形だろ。来生の魂までも取り込んでしまう程に……な」
「まあな……それに……殯の間に、復活を願うって……死して貰っては困る奴がいたと言えるだろ。まあ実際……その執着が影響して、殯が長引いたらしいがな……」
「あいつ……絶対、知っているよな」
「ああ、高宮だろ? 知っていても素直に口にしない奴だからな……そもそも、その存在自体の真偽が問われる。事実、見えてはいないだろ?」
「ああ、まあな……明確なものがなければ口には出来ないのも分かるが、高宮だって命を狙われたって言うのにな。あいつ、戻っては来られたが、一回、死に追い込まれているんだぞ。随分と冷静でいられるものだ」
「そう言うお前だって、仇討ちなど考えてはいないんだろう?」
「なんだ、聞いていたのか。俺と高宮の会話」
蓮の言葉に羽矢さんは、得意げな笑みを見せながら答える。
「門が開けば聞こえるんだよ。格が違うんでな?」
そう答えた羽矢さんに、蓮は呆れたように溜息をつく。
「羽矢、お前……」
「なんだよ?」
蓮は、ははっと声をあげて笑うと、こう答えた。
「やっぱり執念の塊だな?」
「蓮……お前ね……」
羽矢さんの表情が引き攣った。
「ところで……羽矢」
蓮は、真顔で羽矢さんをじっと見る。
「うん? なに、蓮?」
蓮の言葉を聞く僕は、ただ苦笑を漏らすだけだった。
「こんな朝早くからなんでお前が、依の部屋にいるんだよ?」
「まあ、そう言うなよ。いつもの事じゃねえか」
「まったく……」
ははっと笑う羽矢さんを見て、蓮は溜息をついたが、表情を真顔に変えると羽矢さんに言う。
「流石は『死神』だな。お前……あの神社で邪神と化した来生と闘った時、迎えるべき時に変えると言っていたしな……迎えるべき時は三年目……即位礼はその三年目に行うものだ」
続けられた蓮の言葉に、羽矢さんの表情も真顔になった。
「当然、それは国主が崩御した時の践祚……諒闇践祚だ。それがどういう意味を含めているか……高宮 来生こそが国主であったと示しているって訳だろう?」
最初のコメントを投稿しよう!