第3話 死口

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第3話 死口

「宮司となったあいつの顔、見に行ってやるとするか」  水景 回向。父親である神祇伯、水景 瑜伽と同様、呪術も法力も使える元験者(げんざ)。  神仏分離後に、仏の道に進んだ僧侶であったが、事の発端となった、呪いの神社と言われていた神社の遷座も済んだ事もあり、悩んではいたようだったが、父親である神祇伯が、高宮 来生の思いを受け継いで還俗(げんぞく)した事を知り、回向も還俗してその神社の宮司となった。その決心には、高宮 右京の思いも受け継ぐという、その思いもあったのだろう。  だけど……。  蓮は、本殿を見つめながら口を開く。 「神仏混淆(しんぶつこんこう)。神社と名を打ち、祭神は天津神である大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)。本地仏は大日如来ね……やはり、根幹となるものは譲れないよな」  そうなんだ。  神も仏も同一とされる神仏混淆。回向はこの神社をそうやって残す事にした。  それが難なく出来たのも、当主様や神祇伯、国主となった高宮の力添えがあった事にもある。  蓮の言葉に、無表情の回向が答える。 「なにか文句でもあるのか? 紫条(しじょう)。お前に言われる筋合いはないぞ」 「相変わらず愛想がねえな。誰のお陰だと思っているんだよ?」 「はいはい、総代様の御子息には頭が上がりませんよ。その節は御尽力頂きまして、感謝しております。総代に至っては、役を解かれた事に心苦しくも感じておりますが、我が父、水景 瑜伽は、神祇伯として総代の意志を継ぐと申しておりましたので、国主を守るに尽力するかと思います。つきましては……」 「長えよっ! 気持ちの籠っていない挨拶など、どうでもいい」  蓮は、淡々とした口調で言葉を発した回向の言葉を止めた。  回向は、ふっと笑みを漏らす。 「そんな事より、なんだ? 突然の訪問など……聞きたい事があるんだろ?」 「そんな事よりってな……切り替えも、話も早いな」 「事は簡潔にと、口うるさい奴がいるからな」  そう言うと回向は、羽矢さんへと目線を動かす。 「それ、俺の事か?」 「お前以外、誰がいるんだよ? 羽矢」  呆れた表情を見せて言う回向に、羽矢さんは、ははっと笑った。 「それで?」  回向は、蓮へと目線を戻す。  蓮は、回向と目線を合わせると、真剣な表情でこう言った。 「お前の力を貸して欲しい、回向」  僕と羽矢さんが顔を見合わせる。 「は?」 「え?」  この段階で蓮が口にすると思っていなかった言葉に、僕と羽矢さんの驚きは大きかった。 「そんな話だったっけ? 依」  羽矢さんの言葉に。 「あ……えっと……多分、蓮には何か考えがあるのかと……」  そう答えながらも、真意が分からず、いつもと流れが違う事に、僕の驚きは治まらない。  氏族の事を聞くなら、直ぐに本題に入るのかと思っていた。  回向の力を貸して欲しいって……どういう事だろう。 「俺の力……?」  眉を顰める回向に、蓮はニヤリと口元を歪めて笑う。 「神宿りも神降ろしも出来るなら……」  蓮は、言いながら笑みを止める。  そして、続けられた言葉に、回向の表情が大きく変化した。 「『死口(しにくち)』も……出来るか?」  死口……それは、葬儀が終わった死者の言葉を聞くという術。 「おい……蓮」  羽矢さんは、蓮に真意を問うように、間に入る。  だが、羽矢さんが間に入っても、蓮と回向は互いの目線を受け止めていた。  僅かにも緊迫感が漂ったが、それは直ぐに解かれた。  回向は、クスリと笑うと、蓮の真意を探るような目線を向けて答えた。 「ならば、逆に訊くが、出来る……と言ったら、紫条……お前は信じる事が出来るか?」
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