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第19話 両界
体中の血管が浮き出したかのように、赤い脈が明鏡の体を這っていく。
それは、呪縛というものが、そのまま現れているように見えた。
「明鏡……お前……」
強張った表情の回向が、明鏡の手を掴もうと手を伸ばしたが、明鏡はその手を避けた。
「懺悔法など必要のない事が分かるだろう。結果的に高宮 右京が国主の座に就いたとはいえ、一度はその座を奪い、死に追い込んだ。そもそも、今更、懺悔法を行なったとしても、手遅れだ。それが成就であろうが、失敗であろうが大法を使えば同じ事だ……」
そう言うと明鏡は、手をグッと握り締めた。
力が加わったからなのか、握り締めたその手から、ポタリポタリと血が滴り落ちた。
体を縛り付けるように這う脈からも、血が流れ落ち始めた。皮膚を切り裂くようにも溢れ出す血が、顔から首、その手から伝って衣を濡らしていく。
だけど、紫衣から黒衣に変わったその衣には、染み込む血の色は分からない。
ただ黒く……その色以外の何にも染まらない。
色が変わる事がない事に、僕は胸が苦しくなった。
明かされた過去に同情という言葉は、明鏡には不快に感じる事だろう。
「……だから……さっきから……言ってんだろうが」
怒りを交えて震える声。回向は両手を握り、その手に力を込めると、睨むようにも強い目を向けて明鏡を見た。
「理解出来ないなら、門を開いてやる、と。それとも、その前に天子の本命を明らかにするか?」
回向は、強引に明鏡に迫る。
「本体は棺の中にあった。お前が形代を持っている事が、既にそれを明かしているだろう」
「……やめろ。余計な事を言うな」
「余計な事だと? ふざけるな……明かしたいくせに隠そうとするんじゃねえ。そもそも、それが俺たちにも、明鏡、お前にも障壁にもなっているものだろう」
「障壁? それが障壁になるようにしたのは、誰だよっ……!! 関わりを断ち切った存在に……元々、関わりなどないと追い遣り、だがそれでも俺自身、そんなものに執着などなかった! 何が安穏かなんて、誰が決める? 地位があれば全てが報われるのか? 多数の羨望に値する処が、個人の安穏だと押し付けがましいにも程がある……! 血を吐く程の苦しみを背負って生き、それが努力などと言う、自身を支える為の苦を紛らわせる暗示だったとでもと言った方がいいのか……? やっとの思いで得たものを捨て、ここがお前の処であると告げられ……後ろを振り向く事を否定させる……!! どう生きようが全ての存在自体が、時の都合で空席を埋める、駒に過ぎないだけだろうっ……! この身を空にし、この身に降り立たせるべきものは、依代と同じ……その器に値するものであるべきだと、そう降り立たせるんだよっ……!!」
悔しさ紛れに、明鏡は流れ落ちる血を振り払うように腕を振った。
勢いよく振られた手を止めるように、回向の手が明鏡の腕を掴んだ。
「それでも、持経者なら……それをどう理解すべきか分かっていたはずだろう、明鏡」
流れ落ちる血が、回向の手を染めていく。
掴まれた手を振り解こうとするが、回向は離さず、明鏡が力を入れれば入れる程に、回向の力も強くなっていく。
「……お前がどうしたいのか話せよ。天子の本命……本命とは干支の事だ」
回向の強い目線に、明鏡は振り解こうとする手を止めた。
羽矢さんが蓮に眴をする。
蓮は、その目線を受け止め、頷きを見せた。
回向の声が大きく響いた。
「干支は右京と同じだろうがっ……!! お前の事を言っているんだよっ! 明鏡!!」
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