第7話 系譜

1/1
前へ
/181ページ
次へ

第7話 系譜

 当主様の力と同等……。  それが共に肩を並べる立ち位置なら、恐れる事などないだろう。  だが、相対するのであれば、不安要素でしかない。 「なあ……あの時……水景 瑜伽だから准胝(じゅんでい)観音の真言を使ったんだろ」  回向は、ああ、と頷くと、言葉を返す。 「六字河臨法か……。その名の通り、六観音の真言を使う。確かにその中には、准胝観音ではなく、不空羂索(ふくうけんじゃく)観音の真言を使うものがあるが……成程。処は分かれるが、それは当然、同等のものだ」  ……という事は……。  僕の抱えた不安を、回向は言葉に表した。 「総代が役を解かれた今……表に出て来るだろうな」 「神祇伯は、その境界は既に分かっているはずだ。それなのに何故……」 「排除って事か? そうは言っても、明らかに敵意剥き出しなら、その方向にもなるだろうが……なあ、紫条。お前さ……相性合わないと思っても、付き合わざるを得ない状況って分かるか?」  回向のその言葉に、羽矢さんが笑い出した。 「ほらな? 問題ねえだろ?」 「羽矢……お前な……」  蓮は、不愉快そうに顔を歪めたが、ハッとした顔を見せる。 「おい……それって……」  蓮は羽矢さんをじっと見つめる。  何かに気づいた蓮の目線を羽矢さんは、言葉を返さず、真っ直ぐに受け止めていた。  その様子に怪訝な顔を見せる回向。 「なんだ……? お前ら……」  蓮と羽矢さんを交互に見る回向だったが、二人が目線を合わせたままでいる事に、眉を顰める。  回向が怪訝な表情をする中、羽矢さんは回向の肩にポンと手を置いた。だが、目線は蓮の方だ。  蓮の目をじっと捉えながら羽矢さんは、口を開いた。 「そいつにしか出来ねえもん、持ってるって事だろ」  羽矢さんの言葉に蓮は、不快に顔を歪めた。  蓮は、長い溜息をつくと、羽矢さんと同じに、回向の肩に手を置いた。 「……なんなんだよ……お前ら……?」 「やっぱりいいや……さっきの死口の話」 「あ?」  回向の表情が不機嫌さを見せる。 「悪かった……邪魔したな」  蓮は、回向から手を下ろすと、歩を進め始める。  羽矢さんは、少し困った表情を見せながら、羽矢さんも回向の肩から手を下ろした。  回向は、訳が分からずといった様子だったが、それ以前に気づいていたものがあったのだろう。 「紫条!」  蓮が足を止めて振り向くと、回向は蓮に伝える。 「氏族ってな……祖神あってのものなんだよ」  回向の言葉に、蓮は回向へと真っ直ぐに体を向き直した。  蓮は、一直線上に立つ回向の言葉の続きを、待っているようだった。 「天と地を分け、それぞれに神が住み、地を与えられた神は、その地を国と称して統治する……そして、その地を統治する神には、統治を補佐する神を置く。それが氏族だ。だが……」  回向の言葉を聞きながら、蓮が引き返して来る。  一歩一歩、ゆっくりと地を踏み締める足は、回向が話す言葉に納得を示しているようだった。  そして、回向も歩を踏み出し、蓮との距離を縮めていく。  擦れ違う瞬間に、二人は同時に足を止めた。  蓮と回向は、互いを振り向く事なく、自分が向いた方向に目線を向けている。  回向の言葉を真横で聞く蓮は、目線を変えず、呟くように言った。 「……物語……か」 「ああ……そうだ」  蓮は、目を伏せ、ふうっと息をつくと、空を見上げた。 「その物語……聞く意味はあるよな……?」 「ふん……意味も何も、それこそが証明そのものなんだよ。そこに(なぞら)えているんだからな」  そう言って回向は、蓮を振り向く。  そして、続けた言葉に蓮は、そうだなと呟き、ふっと笑みを見せた。 「神には系譜が付きものだ。そうだろう?」
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加