この親にして

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この親にして

 そんな中、どこかしらけたいつもの奴からこのような言葉が発せられた。 「ちょっと待った、誰がどないして雲になるつもりや、まさか爺ちゃんが水蒸気にでも変身するつもりやないやろな?・・そりゃ絶対に無理やろ!」 「お前は夢のない奴っちゃな、折角、孫と幻想的な話してるのに、そんな論理的なこと言い出してどないするねん!」 「でも、儂はお父さんにそう教えられて育ったんや。」  そう言えば心当たりがない訳ではない・・40年も前の或る夜のことだ。まだ五歳そこそこの息子を同乗させ車を走らせていたそのときだった。 『解説しておきますが、ここで云う息子とは今、正に夢のない話で私と孫のコミニケションを破壊しようとしている人物、つまり朝陽や翔のパパの事である。』 その息子がこんなことを言いやがった。 「お父さん、あのお月さんずーっと着いて来よるで。」 車を運転していた私はその回答の為にわざわざ路肩に車を停車することは無かった。私は車を走らせながら、かいつまんで返事をしてやった。 「あのなぁ、儂らが住んでる地球は自転してるんや、けどな、月までの距離があまりにも遠いと、まるで静止しているように見えるんや・・・分かるか?」とね。 すると息子は生意気にも分かったような返事を返して来やがった。 「それやったら僕、お月さんになりたいな。」ってね。 「息子の奴、全然分かっとらんやないか! ん・・待てよ・・まさか息子の奴俺との距離を置きたい?・・だから『お月さんになりたい』なんて言ったのかな?・・」 ―完―
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