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命くれない
私は昨年の夏、あまりの倦怠感で病院を訪れ診察をしてもらった。
「直ぐに入院です。PCR検査が済んだら病室へ案内します。」
瞬く間に緊急入院させられた。肺炎を患い、さらに気胸と言う病も併発していた。
絶対安静と言われ三日間の点滴が続いた。体に沢山のセンサーを張り付けられ、酸素吸入もさせられた。
看護師の問いに答えるのも辛い日々が続いた。普通に酸素が吸えないからだ。
そんな中、息子が案じて電話をくれた。
病院は相変わらずコロナ禍で家族と言えども面会謝絶だ。それを知ってか唯一の連絡手段の携帯に電話を掛けて来たのだろう。私はベッドに体を横たえたまま電話をとった。
その時も今日の孫と同じような言葉を携帯の向こうで息子が言った。
「お父さん、何か欲しいもの無いか? あったら詰所迄、届けるから・・何かないか?」
この言葉に脳ではなく、私の自律神経が先に反応してしまったようだ。
「ん~・・・・命・・ハァ~ハァ」・・」
「・・・・」暫く無言が続いた。
「お~い電話の向こうの息子よ~、黙祷するにはまだ早いぞ! 冗談や、冗談やがな・・」
電話の向こうからは鼻炎でも患っているのか鼻をすする音がする。
「お前らは知らんやろけどな・・昔、瀬川瑛子って歌手がヒットさせた・・(ハァ~ハァ)『♪い~のち、くれない、命くれない♪』って歌があるんや・・(ハァ~ハァ)」
驚いたのか、それとも安堵したの?『どっちやねん!』と突っ込みたくなる程、間をおいてようやく返って来た息子の言葉は・・
「こりゃ大丈夫や! こんな冗談言えたら大丈夫や。」
息子の背後からも微かな笑い声が聞こえた。奴らスピーカーホン使って家族みんなで聞いてやがった。
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